未来をつくる仕事 「水」 9/24開催レポート

2016.11.14

ゲスト:ウェザーニューズ 森田清輝氏、LIXIL 中宮敏博氏、サントリー 鈴木健氏

極度にグローバル化が進展した現代においては、何事においても「地球目線」が必要になる。それは企業活動においても同様だ。本シリーズ「未来をつくる仕事」は、学生ら若年層を対象に、ビジネスとしての“本業”を通じて地球目線で社会価値、地球価値を創出している企業のみなさんにご登壇いただき、グローバルビジネスの最先端を語り合うというもの。第2回のテーマは「水」。「次の戦争は水を巡って起きる」と不吉な予言がなされるほど、水は世界的にも喫緊のテーマである。「多すぎる水と少なすぎる水」、水の偏在がもたらす未来は決して明るいものではない。そこに立ち向かおうとする企業として、世界的な気象会社のウェザーニューズ、住設の巨人・LIXIL、水を育むサントリーが登場する。

 

 

なぜ、企業が地球目線で仕事せねばならないのか

まず冒頭で、触れる地球ミュージアム プロデューサー・竹村から、この触れる地球ミュージアムのコンセプト、「未来をつくる仕事」の課題意識が語られた。

竹村 「この触れる地球ミュージアムは、地球を作る、見る、触れる環境を実現するために作られた。それは、現代が『地球とコミュニケーションするセンス』が必要な時代になったからだ。今、どんなビジネスも、政治も、地球とのコミュニケーションなしには成立しないだろう。

今日はデザイン関係の学生が多いと聞いた。何かをデザインしようとするときに、地球と関係のないものは何一つないのではないか。例えば今日みなさんはお昼に何を食べただろう。仮に和食弁当を食べたとしよう。しかし、日本食といっても、実はその食材の90%は輸入に頼っている。醤油も原料の大豆は90%が輸入。牛や豚の餌となるとうもろこしもそうだ。そう考えると、毎日僕らは地球を食べているとも言える。そんな当たり前の行為を通して地球と関わっている。
MV8T2187 今日のテーマは『水』である。僕らの食べ物を作り出すのに必要な水は、およそその1000倍と言われている。例えば小麦1kgを生産するのに必要な水は少なくとも1000リットル。牛丼一杯に必要な水は2000リットルとも言われる。牛丼に必要な60グラムほどの牛肉に必要な水が2000リットルということだ。

その視点に立つと、日本人は毎日3000リットル以上の水を使っているという。飲料水として3リットル。生活用水に300リットル。そして、食べ物に必要な水の総量がおよそ2700リットル。問題なのは、これが日本の水ではなく、穀物を生産する世界の乾燥地帯の水を使っていることだ。これを『水の偏在』と呼ぶが、我々は食事という日常の行為を通して、世界の水ストレスを悪化させることを知るべきだろう。

とはいえ、ここでネガティブなことばかりを伝えたいわけではない。難しい言葉を並べて声高に地球を守れ、地球を救えと言いたいわけでもない。まずは、理屈を抜きにして、地球の素晴らしさ、面白さを“感じ”てもらいたい。そんな思いから、この『触れる地球』を開発した。

ちょっと考えてみてほしい。みなさんはどんな地図を見て、地球儀を見て育っただろうか。古くからあるメルカトル図法の地図、地球儀。これは今大河ドラマで描かれている桃山時代、16世紀に作られたものだ。つまり、情報環境の設計が依然として16世紀のままなのだ。これは21世紀に沿うようにアップデートしなければならないのではないか。触れる地球開発にはそんな思いもある。
MV8T2236 ではここから『触れる地球』を見ながら話を進めよう。この『触れる地球』には、天気や海流の様子、マグロやカツオの動きなどを見ることもできる。マグロが減少していると言われるが、それは単純に「乱獲」していることが問題ではなく、性成熟し産卵する前の幼魚も捕獲してしまっていることが大きな問題であることを知るものは少ない。食のデザインというのは、お皿やフォークのデザインばかりではなく、そういったことまで含めて食全体をデザインすることだ。それを僕らはeating designと呼んでいる。

カツオの動きは、味の素さんが行っている生態調査のデータをご提供いただいている。今日ご登壇いただくサントリーさんは、水を確保するために森林を育てている。それはきれいごとじゃなく、そうしなければ20年後30年後にも企業活動が保てないからだ。そこから見えるのは、未来の企業のあるべき姿、社会、地球との関わり方だ。こうしたことを、『覚えておいてください』と言いたいのではなく、もしみなさんが今まで考えたことがなかったとしたら、それはデザインの仕事に足りていなかったということだし、これからはそれを考えなければデザインはできないのではないかということだ。今、いろいろなものが地球とのコミュニケーションを欠いたバッドデザインになっているのはそれが原因だ。しかし、逆にデザイナーには、これからやるべきこと、できることがたくさんあるとも言えるかもしれない。

さて、今地球儀には台風が現れている(表示されている)。今年は前半に台風が少なく水不足が心配されたが、後半に大きな台風で被害が出た。これは海水温のデータも重ねて見るとその原因が見えてくる。いつになく高い海水が台風を育て、大きな被害を出した。しかし、台風が過ぎた後の海面を見ると水温が下がっていることが分かる。台風はミキサーのようなもので、海洋深層水を巻き上げて海を冷やしていく。つまり台風は被害をもたらすものであるとともに、海を豊かにもしているのだ。これは実は火山も同じことで、火山の多い日本はミネラルに富む肥沃な土壌を持つ。つまり、災いと恵みは表裏一体で、大切なのは常に備えながらどう関わるかということなのだ。
MV8T2249 これを踏まえながら、次は人間の活動を見てみよう。今日の登壇者であるウェザニューズさんからは世界中の船舶の、動きのデータを頂いている。飛行機の動きをリアルタイムで見ることもできる。そして、今地球の人口はおよそ74億人いるが、その半分が沿岸部の都市にいることも見ることができる。また、ついに10億台を突破した自動車を始め人間活動がもたらす大気汚染の原因物質、硫黄酸化物質、窒素酸化物質の動きも表示される。

もっともグローバルに影響を与える気体はCO2だ。『触れる地球』にはシミュレーターが搭載されており、未来の地球を見ることもできるが、40年後――みなさんがリアルに感じられる近未来を見てみると、こんなにも温暖化が進んでいる。北極やヒマラヤの温暖化が進むとどうなるだろうか。日本ではホッキョクグマが困る、くらいの報道しかないが、実は局地との温度差が減ることでジェット気流が変化し、世界中で干ばつを長期化しているという観測がある。氷床が減ったことで、2006年にはシリアで、2010年にロシアに干ばつが起き中東の食糧事情が一気に悪化した。そのためシリアではアサド政権への反発が起き、ISの出現を準備した。また、2010年の食糧不足は各地で現政権への反発を生み出し、結果『アラブの春』をもたらした。我々はアラブの春を情報化社会がもたらした“ツイッター革命”などと呼び習わすが、その背後にそうした食糧事情があったことを忘れてはならない。そう考えると、温暖化は興味ない、関係ないと言える問題ではない。極めて現実的な課題であり、我々の政治、生活にも密接に関わっていることが分かってくる。
MV8T2266 また、ヒマラヤは、南アジアから東南アジア、中国の一部にかけて、人々の生活を支える大河の水源地になっている。ヒマラヤからの水に依存している人口はおよそ30億人とも言われている。言ってみればヒマラヤは水の銀行のようなものだが、温暖化でその元本がどんどんなくなってきている。中国では人口増加と食料生産能力の低下から、食糧の10~15%を輸入に頼るようになった。これはほぼ日本の輸入量に相当する。中国で食文化が肉食に変わりつつあるのも世界的な食糧事情を圧迫する理由になっている。

かように地球と人間の活動は密接に関わっている。今日は『水』をキーワードに、地球と人間の関係を、企業活動を通して考え、変えようとしているみなさんにお話しいただくことになる。今世界各地で、台風や洪水など水害に代表される『多すぎる水』と、干ばつや衛生的な水が不足する『少なすぎる水』、両方の課題がある。これを人間の知恵でならすことができるのか、どうマネジメントするのか。3つの企業のみなさんはこうした課題に対する先進事例だ。まずは『トイレ』を扱うLIXILの中宮さんにお話しいただこう。水不足、衛生的な水の問題、さらに排泄物の肥料利用と一石三鳥の画期的プロジェクトである。」

 

 

世界を救うトイレ――LIXIL・GTSプロジェクト

MV8T2382 LIXIL・中宮氏

中宮 「まずLIXILについて簡単に説明すると、住宅設備全般を扱う企業で、家の中すべてLIXILで賄えることを目指している。グローエ、アメリカン・スタンダードなど海外の企業も傘下に置くグローバル企業でもある。そこで今、トイレの問題に携わっている。『無水・無電源トイレ』で新興国の課題を解決するプロジェクトだ。

では、水について考えよう。竹村先生のお話にもあったように、地球は水の惑星だが、実は人間が容易に使える水は全体の0.1%ほどにすぎない。住設の会社なのでお風呂に例えると、バスタブ一杯の水に対して、使える水は大さじ一杯分程度にすぎないということ。水は『天からのもらい水』ではなく、非常に貴重な資源であること、これは今日ぜひ理解して帰ってほしい。

実はトイレは、『水の消費設備』というくらい多くの水を使う。20年前から節水を切り口にした製品開発に努め、流す水の量を1回12リットルから4リットルまで減らすことができた。世界的に見ると、衛生的な水を使えない人が8.9億人、衛生悪化による乳児死亡は年間220万人、きれいなトイレが使えない人は25億人にも上る。水資源の保護と衛生環境改善は世界的な課題なのだ。これは、企業的にいえば大きなビジネスチャンスになるということだし、また、未来を創る仕事とも言える。そこでLIXILでは、水資源を守りながら、排泄物を肥料として循環させる取り組みをスタートさせた。

スライド13新興国のトイレ環境は安全面でも衛生面でも改善の余地が多々ある(当日のプレゼン資料より)

新興国のトイレの現状を見ると、都市部では比較的日本に近いものが使われているが、農村部に行くに従い、環境が悪くなる。家の外、離れたところにある、山道の途中にあるといった悪い立地条件のほか、排泄物をピット(穴)に落とし地中に浸透させるだけといった処理上の悪条件もある。不十分な処理は河川、水源の汚染を招く原因にもなっている。

こうした課題に対して開発したのが、無水無電源トイレだ。今では資源循環型トイレとして『Green Toilet System』(GTS)と呼んでいる。ポイントは排泄物を肥料として再利用する機構を組み込んだこと。人間1人あたりの排泄物から得られる肥料価値は、年間1500円に相当する。しかし、尿と便は物性が違い、混在させて堆肥化するのは効率が悪い。そこで排泄時に尿と便を分けられる仕組みを組み込んだ。レバーで切り替えるので、簡単なうえ、ちょっとした楽しさもある。これだけでトイレの臭気が低減し、水の使用量も減らせた。インドネシアで実証実験を行い、75%の水をカットできるという結果が得られた。ケニアでも設置し、先日のTICAD(アフリカ開発会議)では多くの要人たちにブースに来ていただけた。

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GTSで生産される肥料の効果実証にも取り組んでいる(当日のプレゼン資料より)

こうした貯められた排泄物には助剤を加え、定期的に撹拌することで発酵し、堆肥化する。問題は、その効果を知り使ってもらうようにすることだ。イスラム教圏では、宗教的に排泄物への忌避感が強く、簡単に使ってもらえるものではない。そこでインドネシアでは主食になるメイズ(とうもろこし)、ケニアでは主力輸出品のバラの挿し木で肥料の効果の実証を行っている。

我々はこれを『サステナブルサニテーション』と呼び、『サステナブルアグリカルチャー』の実現を目指している。まだまだ開発途中ではあるが、インパクトは非常に大きいと思う。特に新興国では期待も高まっており、今後さらに広がっていきそうだ。」

 

 

地球目線的インターミッション(1)

竹村 「20世紀は戦争の原因が石油にあったという意味において石油の世紀だった。そして21世紀は水の世紀だと言われている。その中で水資源を保護し、排泄物を循環させるトイレは大変なソリューションになるだろう。開発のきっかけには3.11もあったと聞く。災害時利用など多様な利用法が見込めるだろう。し尿の肥料利用が進めば、都市部、近郊部の農業にも好影響がありそうだ。インドネシアでの実用化の可能性はどうだろうか。」

 

中宮 「やはりし尿を使うことに対する抵抗感は大きいようだ。しかし、効果を見せるとなるほど、と納得してくれる人が増えてきている。これからだろう。」

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竹村 このトイレのあり方は地球未来標準と言えるのではないか。日本から地球にお役に立てる技術を発信できるというのは素晴らしいことだと思う。」

 

中宮 ケニアはバラの産地として有名なので、いずれ日本でもきれいなバラが実は人間のし尿で作られているという時代になるだろう。いろいろなストーリーがあることを知ってほしい。」

 

竹村 続いては、『多すぎる水』対して私達がどう対処するのか、どうマネジメントするのかという課題について、『参加型減災』というか、今風に言えば「クラウド減災」でやろうとしている、世界的な気象会社であるウェザーニューズの森田さん。参加者全員が情報を発信し、全員でシェアし、減災しようとする。その取り組みについてお話しいただこう。」

 

 

みんなで天気予報――ウェザーニューズ・ゲリラ雷雨防衛隊

 

mobile_weatherウェザーニューズの天気予報は海から空、陸地へ、そしてリビングへと変遷してきた(ウェザーニューズのサイトより)

森田 「ウェザーニューズの創業は1986年、企業としては壮年期になる。船舶向けの気象情報からスタートし、それから、空、つまり航空機向けの気象情報、陸上の気象情報へと拡大してきた。顧客は企業で、船舶会社、航空会社などへ情報を提供している。陸上の気象情報は、例えばコンビニエンスストアのように、気候に応じて取り扱う商品を変えるような企業に提供する。近年では自社の観測インフラも持ち、例えば北極圏の氷河をリアルタイムで観測し、船舶の運行に役立てたりもしている。

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ウェザーニューズ・森田氏

そして、このような気象科学・技術に基づくサービスとは別に、携帯電話にカメラが付いた2004年ころからスタートしたのが『Weather Report』だ。これは一般ユーザーのみなさんに『空の写真を送ってください』とお願いするものだったが、本当にたくさんの写真が寄せられた。これで天気予報ができるのではないか、というくらいで、これで、海から始まった天気予報が、空、陸、そしてリビングまで広げる手応えを得ることができたのだった。

ちょっと考えてみよう。最近の台風は温暖化の影響で発生回数は減っているが、巨大化傾向にある。降るときはすごく降る、“メリハリ”がすごく付いた、そういう時代になってきたわけで、じゃあ、そんな時代でどうしたら良いのか。それで、我々が考えたのは、まず『知ること』ではないかということだった。

ゲリラ雷雨
ゲリラ豪雨防衛隊のスマホ画面
(ウェザーニュースのサイトより)

Weather Reportでやるのは、つまり雲を見てください、ということ。毎日雲を見ていれば変化が分かるようになる。そして、そういう人たちでコミュニティを作り、それが結果として減災につながるのではないか。そこでWeather Reportから2008年に『ゲリラ雷雨防衛隊』をスタートさせた。

当時東京では下水道の作業員がゲリラ雷雨で流されて死亡する事故が起き、関西では枯れ川が急激な雨のために短時間で増水する現象が見られていた。こうしたことは、『今の気象学では予測できない』とされていたことだ。ゲリラ雷雨の原因となる積乱雲の寿命は20~60分。この短時間の動きをレーダーでは把握できないのだ。じゃあ、大勢の人で観測して集めれば予測できるのではないか。やってみると、集めた写真を映像解析し危険な場合はアラートを出すことができるようになった。気象学では不可能なことでも、みんなでやれば可能になることはまだまだたくさんあるだろう。

この成果を受けて、イギリス、アメリカ、ロシアからやってみたいという打診を受けている。昨年からは中国の北京で大雪アラームを出す取り組みを始めており、概ね好評で、今年もやろうと考えている。今、こうした仕組をどうやったら世界へ広めていくことができるかが課題だと考えている。我々にとってはひとつの『企画』だが、今日集まったみなさんにとってはひとつの『デザイン』だろう。ぜひ、世界へ持っていくためのデザインを考えてもらえるとありがたい。」

 

 

地球目線的インターミッション(2)

竹村 「まさに世界に類のない取り組み。人間の感覚を使う『感測』を利用し、人間の価値を高めている。1人1人からデータを集め、ITを使って減災に努めている。これはいうまでもなく、コミュニケーションデザインの先進例であることがお分かりいただけただろう。
次に登場するのは、サントリーさんだが、ちょっとこの『天然水』を見てみてほしい。ARが仕込まれており、スマホをかざすとその水が生まれた場所を映像で見ることができるようになっている。これは私達が始めた、モノに語らせる『ものがたりプロジェクト』によるものだ。サントリーさんが、水にどうこだわり、どんな活動をしているのか、お話を伺いたい。」

 

 

水を育てることは、森を、土を育てること――サントリー「天然水の森」プロジェクト

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サントリーの「天然水の森」。どちらかと言えば「問題のある森」を地権者から借受け改善に努めているという(当日のプレゼン資料より)
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サントリー・鈴木氏

鈴木 「『天然水』には3種類あることをご存知だろうか。『南アルプスの天然水』『南大山の天然水』『阿蘇の天然水』だ。これはサントリーが管理する全国18カ所、8000haの水源林『天然水の森』から選ばれたもの。これらはすべて良質な地下水を使用している。そして、サントリーはこれらの水源エリアを含め、全国19箇所、約9000haの水源林を『天然水の森』に設定し、保全活動を実施している。

サントリーでは、ずっと地下水にこだわり続けている。それは、最初は『ウィスキーに合うから』だったが、今ではほとんどの製品が良質な地下水を使ってつくられている。そして、全国で天然水の森を管理しているのは、水のサステナビリティ追求のためでもある。今サントリーでは実に多くの飲料を製造している。持続的に長く水を使い続けるためには、汲み上げて使う水よりも、森が育む地下水の量が多くなければならない。

地下水はどう育まれるか。雨が降り、森林の土壌から地中に浸透する。浸透した水は、大きく分けると比較的浅いレベルの地下水と、岩盤に浸透した深い地下水の、2つに分かれる。浅い地下水は土壌による浄化は進んでいるが、深い地下水はさらに岩盤に含まれるミネラルが溶出する。サントリーが使うのは深い地下水で、山に降った雨がこの深い地下水になるにはおよそ20年かかると言われている。サントリーが使うのはこの深い地下水だ。
そして、雨水が浸透するためには森林土壌がとても重要だ。みなさんは人工林に行かれたことはあるだろうか。表土が踏み固めたように固く、雨が降ってもまったく浸透しない。状態が悪い土壌とは、雨がざーっと流れてしまってそのまま川へ、海へと流れておしまい、地下水として涵養されないのだ。つまり、雨水が浸透しやすい“ふかふか”の土があることが求められる。イメージとしては畑の土に近い。

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地下水のイメージ(当日のプレゼン資料より)

耕す人のいない山でそんな土を育むには、生物多様性が必要だ。植物の根が土を耕し、集まる動物や虫の糞、虫の死骸を土中の微生物が分解し、土をさらに豊かにしていく。生物多様性の良い循環が良い土壌を育んでいく。それを検証するために、我々は鳥の観察もしている。生物多様性が豊かな森林には鳥も多く集まる。鳥は羽があるため移動が容易で、環境が悪化すると簡単に別の場所へ移り住んでしまう。極めて有効な環境指標生物なのだ。

このように、豊かな水を育むためには豊かな土壌、豊かな生物相が必要であり、それらを個別にではなく、一体として考える必要があると考えている。時間軸はとても長く、フィールドはとても広大で、個別の領域でみると専門性は極めて高い。しかし、それをすべて結びつけ、豊かな自然を守り、育むことが、サントリーの役目だと考え、日々の活動に取り組んでいる。」

 

 

地球とデザインを巡るディスカッション

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竹村 「人と地球がコラボしながら土壌を育む素晴らしい事例だと思う。残り時間は会場とのディスカッションに当てたいと思う。」

 

森田 「まず私からみなさんに協力をお願いしたい。みなさんが目にする天気予報のマーク。私たちは長年やってきていて、そろそろ飽きてしまっている(笑)。晴れは晴れのマーク一種類だけ。曇り、雨もそう。これをもっと面白くデザインしてもらうことはできないだろうか。ぜひ課題などで考えてほしい。」

 

会場からの質問 「海外に行くと、トイレに興味を持っている人が少ないのかなと思う。日本は江戸時代からすごく清潔な都市環境を作ってきた、そこに差があるようにも感じた。質問したいのは、GSTが海外で成功した後、日本などの先進国に逆輸入される可能性はあるのだろうかということと、そのときに受け入れられるだろうかという疑問だ。」

 

中宮 「それは良い質問で、我々もリバース・イノベーションが起きると考えている。日本に持ち込まれる際には、おそらくなんらかの“デザイン”が必要になるだろうと思うし、そこをみなさんのようなデザイナーに頑張ってほしいと考えている。」

 

会場からの質問 「排泄物が堆肥化するのにはどれくらい時間がかかるのか?」

 

中宮 「特殊処理尿は40日、便は90日ほど。短縮がこれからの課題のひとつになっている。」

 

竹村 「それは微生物の力を使ってということだと思うが、一種の生態系を作るようなものだと思う。その点、サントリーの取り組みも生態系をデザインすることのように思うがどうか。」
鈴木 「その通りだと思う。生態系ピラミッドは、一部の生物がなくても成立するが小さくなったり歪になったりしてしまう。健全なピラミッドをデザインするためには、土台となる土壌が重要になる。」

 

竹村 「生物と対話する、森と対話する、水と対話する。地球とコミュニケーションすることがどの分野でも重要だと思うが、気象の世界はどうだろうか。」

 

森田 「気象の世界では、効率化の名の下に技術が細分化し、全体を統合的に見ることができなくなってしまった。結局、そこに長く住んで空を毎日見ている人のほうが天気をよく理解している。今私達がやっている取り組みもそういうことだと思う。」

 

竹村 「今日みなさんのお話で共通していたのは、“自分ごとにする”ということだったようにも思う。やるだけやって、後は知らないよ、ではない。トイレの下水しかり、取水後の地下水もそう。降った雨が保水されて良い水になるようマネジメントしてデザインしている。その地下水ができるのは20年後なのだから、いわば未来とコミュニケーションしているようなもの。未来世代のデザイン、大きな循環のデザインでもある。これからの時代は、地球と対話できる人のセンスが重要になる。地球全体を循環させる大きな輪、そして未来まで見据えた、時間的な大きな輪。そういったものが、これからのデザインには重要であることを感じてもらえたらと願う。今日は長い時間、どうもありがとうございました。レポートを書く人もいると思う。ぜひ感想だけじゃなく、未来を作るクリエイティブな提案も盛り込んでみてください。」

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