未開の未来 第3回 都市の未来 9/14開催レポート

2016.11.24

2016年7月、東京駅から皇居方面に続く行幸通り地下通路に「丸の内・触れる地球ミュージアム」がオープンした。10月末までの約3カ月、「触れる地球」を5台設置した体験ミュージアム、そして全長220m にもおよぶ通路空間に「海・森・生物多様性」、「防災・減災・レジリエンス」、「未来技術」等をテーマにした演出がなされ、子ども向けから大人向けまで様々なイベントが開催されている。そのイベントの一つ「未開の未来」は、全9回にわたり、本ミュージアムプロデューサーの竹村が毎回多彩なゲストを招き、まだ見ぬ未来を語り合うトークセッションだ。

 

第3回のゲストは、企業や建築家やクリエイターとともにこれからの住まいのあり方を考えるプロジェクト「HOUSE VISION」の企画コーディネートをする土谷貞雄氏と、「官能都市(センシュアス・シティ)」というキーワードを掲げて人の感覚や行動を基準に都市評価を実施した島原万丈氏。「都市の未来」について、新しい視座に基づいた自由な議論が交わされた。

 

竹村 「今日考えたいのは、技術面からどんなことが可能かという、いわば『三人称』にとどまらず、そこに住んでさまざまな活動をする人間の目線から見た『一人称』の都市論・住宅論です。

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『わたし』という一人称で考えたとき、住宅や都市にはどんな条件が求められるのか。体の感覚の延長で外光や風を取り入れられる家ができるかもしれない。あるいは、行為によって用途が変化する家ができるかもしれな……もともと日本の家は、同じ空間が、襖を外せば大広間に、ちゃぶ台を置けば食堂に、布団を敷けば寝室になりますよね。

僕らの体は日々細胞が入れ替わり、新陳代謝してなお自分であり続けている。そんなふうに更新し続ける都市や住宅を一人称でどう考えていけるか。

そんなふうに2030年の都市をまったく新しい視点で構想するためのナビゲーターとして、お二方をお招きしました。

それではよろしくお願いします。」

 

 

これからの住宅のあり方を考え、実践する「HOUSE VISION」の挑戦

——土谷貞雄

土谷 「HOUSE VISIONはデザイナー原 研哉氏がディレクターを務め、僕は企画コーディネイトを担当しています。

活動は2011年から始まり、シンポジウムを2011年と2015年に東京で、2012年に北京で、展覧会を2013年と2016年に東京で開催しました。

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HOUSE VISIONは、家をプラットフォームにして、建築家やクリエイターと企業が協働で、その企業の技術やサービス、哲学を使いながらこれからの暮らし像を考えていくプロジェクトです。経済も人口もあらゆるものが縮退しつつある日本社会ですが、様々な企業が一緒に考えることで、『暮らし』を今までの住宅産業でなく、もっと大きな視点で捉え、日本の産業の未来への流れを俯瞰し、暮らしのまわりに起きる産業をつくり出したいと考えています。

2回目の展覧会では、以下のようなマッチングで展示が行われました。

ヤマトホールディングス×柴田文江

Airbnb×長谷川豪

Panasonic×永山祐子

無印良品×アトリエ・ワン

三越伊勢丹×谷尻誠+吉田愛

大東建託×藤本壮介

LIXIL×坂茂

住友林業×西畠清順+隈研吾

凸版印刷×日本デザインセンター 原デザイン研究所

TOTO+YKK AP×五十嵐淳・藤森泰司

TOYOTA×隈研吾

カルチュア・コンビニエンス・クラブ×日本デザインセンター 原デザイン研究所×中島信也

AGF×長谷川豪

マッチングに際しては、企業、建築家にそれぞれヒヤリングやワーキングを通してこの組み合わせならなにか新たなビジョンが創り出せるんじゃないかと、考えて提案しています。そこにいくまで多くの研究者や建築家、企業と研究会を重ね、特に現代の社会課題を考えて進めるのです。

今のところ3年に1回の開催を予定していて、次回は2019年になると思いますがまだ決めてはおりません。

この活動(研究会)は日本だけでなく、アジア各地で展開しています。インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、中国です。特に中国は2017年に展覧会の開催を目指して今最終調整をしています。日本の展覧会を持っていくのではなく、各国それぞれの建築家と企業とで、その国の状況を鑑みて未来の暮らし像を考えるのです。

2016年の展示からいくつかご紹介します。

ヤマトホールディングスのテーマは『外から冷蔵庫が開く家』です。

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一人暮らしの人は宅配の荷物を受け取れないことが多いです。それを解決するため、画像認証や指紋認証などのセキュリティシステムを備えて外に開く冷蔵庫や目的に応じた宅配ボックスを介して、人がいなくても安全に荷物を受け取れる仕組みを作りました。

これがあれば、たとえば冷蔵庫からビールを一本取ると次の日には補充されているとか、洗濯物もそこから出して一枚着たら次の日に、きれいなものが入っているとか、そんなことも可能になるでしょう。

今回のHOUSE VISIONのテーマは『CO-DIVIDUAL 分かれてつながる/離れてあつまる』でした。展覧会のためにつくった言葉です。我々は既存のコミュニティからindividual、つまり個人化して都市に住むようになっています。個というものが拡大している時代に、新しい社会像を作るためにどのようにしてもう一度社会とまた人々とつながっていくのか、そのことが問われていると考えたのです。

これはAirbnbの『吉野杉の家』です。

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吉野杉は奈良県吉野町周辺で古くから植林されている高級木材です。国内需要が下がる中、世界に価値を発信していく必要があります。この展示では民泊を世界中で展開しているAirbnbと長谷川豪をキャスティングしました。

展覧会の後、この家を吉野に移築してAirbnbに登録されます。自治体がコミュニティカフェを運営し、そこに外からやってくるゲストが宿泊できるようにします。カフェではゲストと地元の人の交流も生まれます。Airbnbの新しいビジネスモデルであると同時に、地域で『CO-DIVIDUAL 分かれてつながる/離れてあつまる』を考えることも、ここでのテーマです。

無印良品は『棚田オフィス』を展示しました。千葉鴨川で棚田の再生の取り組みのための拠点です。すでに無印良品はここを拠点に、お客さんと一緒に体験農業のイベントをしています。

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インバウンド観光の貴重な資産である『日本の原風景』は、人間が自然に手を加えることで形成されてきました。そういう風景をどう取り戻すかということは大きな課題です。

またサテライトオフィスとしても機能していて、無印良品のスタッフは1日だけ会社に行き、あとは農業をしつつ、そのかたわらの日常の仕事もこのオフィスでします。展覧会がおわったあと移築されます。

大東建託の『賃貸空間タワー』は、『賃貸住宅の新しいかたち』をテーマに取り組みました。

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これは住人8人のシェアハウスです。それぞれの占有空間を最小化して、リビングやキッチン、庭などをゆったり配しました。普通のシェアハウスと違うのは、この共有空間を時間貸しできるようになって、外部の人も使えるというところです。個室でさえ、使っていない時は貸してしまうこともできます。シェアハウスの住人だけのコミュニティでなく近隣の人も使えるということ。いかに町に開いていくかをテーマにしています。

LIXILの展示は『凝縮と解放の家』。

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風呂・トイレ・キッチン・洗面をひとまとめにしています。給水・排水も床下に配置せず、このユニットの上に置いたので、つまりインフラが建築から離れています。このユニットさえあればどんな場所でも住宅になりうるのです。

ご紹介したのは展覧会の一部ですが、このように、具体的なかたちとしてエキシビションハウスを建てて展示することで人々に課題を投げかけ、観覧者が自分の暮らしについて考えていくようになることが、この展覧会の目的です。

都市というのはデザイナーや建築家がつくるものではなく、人々の意識の表層なんですね。意識の変化・進化の形が都市だとすると、その意識に訴えかけるのがHOUSE VISIONです。答えを提案するというより、実際に形にして、見た人たちに『これはどうなんだろう』と考えてもらう試みなのです。

 

 

アジア新興都市での住宅のあり方を考える意義とは

先ほど申し上げましたように、アジア各地でもHOUSE VISIONを開催しています。毎週のように各地に赴き、フィールドワークやトークセッションをしながら進めています。現地の建築家や企業、大学の研究者なども加わります。日本からも時々建築家がいき、意見交換をすることもあります。

なぜアジアかといいますと、今、世界の熱帯地域に人口1000万以上のいわゆるメガシティがどんどんできているんですね。急速な経済成長は都市を無秩序に拡大させているようにも見えます。こうした時期に都市を構成する家について考えることは、これからの都市のあり方を模索する上で大きな意義があると思っています。

日本の人口は、2050年には8000万人になると予測されています。現在の66%に減少します。そのうち65歳以上の人口が40%。一世帯あたりの人数は1.1人で、ほとんどが単身世帯になります。都市に住んでいる割合が他国に比べとても大きいのも特徴です。

これだけ見ると悲観的になってしまいますが、まずはこれを一旦頭にいれておきましょう。

 

それに対して世界の人口はこれから151%増加すると言われ、その半分以上はアジアに集中しています。

特に都市部では、経済発展に伴って農村からの流入人口は増えています。都市においては、子供は少なく、高齢化も進みつつあります。日本と同じような状況です。例えば中国では、都市の人口が急増している裏側で1日に100の村が消滅していくと言われています。信じがたい数字ですよね。

また、空気汚染などの環境問題も深刻です。

経済発展には社会的課題や環境問題がつきもののようになっていますが、できれば発展したあとに課題を解決するのでなく、経済発展も環境課題も同時に解決していきたいですよね。その方策を考える機会づくりが、HOUSE VISIONがアジアで活動する意義のひとつですね。

我々は日本の経済発展とそれに伴う課題や問題を経験し、少なからず解決のためのビジョンを持つ者として、できることがあるんじゃないか。そういう思いを持って活動してます。

それともう一つ重要なポイントがあります。

先ほど熱帯地域に巨大な人口をもつ都市が増えていると言いました。日本は亜熱帯モンスーン気候で、このアジアの熱帯地域との気候の共通点を多く持ちます。今まで近代化とは西洋化であり、それは寒い地方の建築を学びそれを規範としてきました。しかし今、熱帯地方の都市を考えるときに、近代都市を形成してきたヨーロッパと違う気候や風土での建築や都市のあり方を構築する必要があります。そのためにも、アジアの人たちと一緒に未来の暮らし像を考えることに大きな意義があると思っています。

 

 

未来の住宅・都市を考えるために、「家族」の変化を考えよう

最後に、皆さんと一緒に考えられたらいいなと思うのが、『家族ってなんだろう』ということです。

日本は個人化が進んだ社会です。徹底して個が拡大しています。同時に、SNSなどを使ってひとところにいながら瞬時に他の人たちと、かつ様々なネットワークとつながっています。

そうした環境もあって家族のあり方も変化しています。かつては、国家、社会、地域、家族、そして個人と同心円状につながっていく社会構造でしたが、今は個人がいろんなネットワークにつながっていくことで、家族の結束力が希薄になっているのではないかと考えます。その変化を考慮しないと、これからの家は考えられない。家を考えられなければ都市についても考えられない。

だから、『社会の原点である家族ってなんだろう、この先も続くんだろうか』『人工知能が発達して、ロボットがもっと進化したなら、生身の人間より人工知能のほうがいいんだろうか』そんなことを考えざるを得ないわけです。それでもぼくは家族が大事だと思っていますが。

もうひとつのポイントは『欲求』の問題です。食欲、睡眠欲、性欲という個人の身体的欲求を超えて、自分を地球生命体のひとつとして欲求を考えることができるのだろうか? ということです。

僕は、多分できる、実際そういうことが起きつつある、と思っています。

最近、若い人たちがボランティアに行ったり、貨幣経済だけじゃない譲与経済や交換経済といったかつてのシステムが、今までの経済システムを補完するような時代になっています。資本主義経済のほころびを受け止めつつ、自分の欲望をより高い次元で捉えるようになってきているのでないかと。そこに人間の進化の萌芽を感じるのです。

もう一度聞いてみたいのです。家族とは? みなさんにとっての家族とは? 家族の問題をぜひ皆さんと考えたいと思います。」

 

 

HOUSE VISIONが、「住まいづくり」に多様な業種を巻き込む理由

竹村 「HOUSE VISIONが画期的なのは、さまざまな産業の結節点として住宅を捉えているところだと思うんです。しかもハイテク技術をただ寄せ集めるのではなく、そこに暮らす人間の立場に活かすために、建築家をうまく起用していることに感心しています。そのマッチングも、土谷さんや原研哉さんの視点があってこそだと思います。」

 

土谷 「建築家は、日々概念を形にするという訓練をしています。つまり、相手の情報を聞いて形にすることができるすばらしい才能を持っている職能だと思います。とはいえそのマッチングには時間を要します。展覧会前、約2年間を費やしました。また、途中で浮上する社会問題に、こんな企業にも入ってほしいね、みたいなことも同時に考えていくのです。

さらに、家のことではありますが、参加企業はハウスメーカーやデベロッパーではなく、他領域の人たちが入ってくることにポイントがあるんじゃないかと思います。今まで家の産業の真ん中にいない人たちが家のことに結びついていく、そういう時代が来ると思います。」

 

竹村 「AIのほうがいい建築を作れちゃうかもしれない時代に、生身の身体と経験を持った建築家としてなにができるのかを真剣に問うている人たちこそが、最先端の技術をうまく活用できる気がします。」

土谷 「社会には住宅を得意とする建築家と、もう少し大規模な公共建築を得意とする建築家の両方の方がいますし、都市計画家という人たちもいる中で、一人称に近づけるためにはどうキュレーションするべきか。それはいつも考えます。」

 

竹村 「アジアには雨季と乾季で水の水位が何十メーターも変わってしまう場所もあり、住宅は高床式が当たり前だったり、もともと舟で生活する人々もいた。そういうアジア的な変動を前提とした都市、住宅設計が求められる時代になっています。

それなのにアジアは、変動に対して適応する余地のない、ヨーロッパ由来の近代建築を受け継いでいます。それは残念な気がします。」

 

土谷 「今、計画という定義が大きく変わろうとしています。都市計画があっても計画通りにいかないということはわかってきたのです。複雑さや変動性をどう計画に折り込めるか、計画ができないことをどう計画するのかといいう複雑性の理解が必要になっているのです。テクノロジーの進化とともに我々の意識も変え、我々自身が進化しなければならないと思います。」

 

竹村 「ぼくらの体は細胞が入れ替わって組織を作り直し続けているから成長できる。三頭身の子供が八頭身美人にもなれる、怪我も治る。都市や住宅もそうなればいいですよね。

今まで住んでいた場所で暮らせなくなったとき、しばらく別の場所に暮らし、戻ってこれるようになったら戻る。自然災害が頻発する中、そういうモードがデフォルトにならないとやっていけないんじゃないかと思うんです。

そのために、さっきご紹介いただいたLIXILの水回りユニットが大いに役立ちそうです。また、燃料電池車が普及すれば、車を蓄電池として活用できるのでエネルギーの自立性も確保できる(『未開の未来』第2回参照)。そうすると、定住地が失われたら生活が断絶してしまうという不自由さから解放されるかもしれない。」

 

土谷 「都市が変わるのは災害の後だといいます。大変な災害から教訓を得て、我々の暮らし方や価値観を見直す機会としていくことが必要だと思いますね。」

 

 

都市を人間の身体性から捉え直す「センシュアス・シティ(官能都市)」という試み

——島原万丈

島原 「こんばんは。HOME’S総研の島原でございます。

普段は住宅周りの調査研究をしていますが、去年、『Sensuous City [官能都市]』という調査レポートを発表しました。

官能という言葉には、『感覚的』『五感に訴える』という意味があります。このレポートは、いま東京に限らず全国の都市中心部で巨大再開発が進展する一方で、都市が均質化しているんじゃないかという問題意識からスタートして、都市の本当の魅力とは何か、人間の体で都市を評価し直そうという試みです。

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グーグルで『再開発』と画像検索すると、同じような高層ビルや公園が並ぶ市街地の写真がずらっと並びます。どれがどこの街がわかる人はごくわずかでしょう。

これらの再開発のもとになるフォーマットは、国が作っています。道がいびつで木造の建物が密集している街で、道を広げて駅前ロータリーを整備し、家は一旦潰して高層マンションにする。これが日本中の市町村で進められています。

この都市計画の生みの親は、ル・コルビュジエという建築家です。モダニズム建築や家具の名作をたくさん残し、日本でも美術館を作ったすばらしい建築家ですが、都市を語るとこうなります。

彼が1920年代に発表した『300万人の現代都市』という都市計画には、我々にも見覚えのある街が理想の街として提唱されています。その特徴は広くまっすぐな道。1区画が大きく、周りに緑地を設けてタワーを作ります。

コルビジュエさんの建築には、いかにも20世紀的な思想が反映されています。それは、ピロティ、高床なんです。ヨーロッパで生まれた建築なので、高床は湿気を防ぐことが目的ではない。土地から切り離すためなんです。彼は『住宅と土地はなんの関係もない』と言い切った。土地から切り離してしまえば、どの場所でも同じものが立てられる。大量生産を志向する非常に工業的な発想ですね。

コルビュジエさんは、『ヴォアザン計画』と題してこの概念をパリに提案しますが、受け入れられませんでした。なにしろ、当時のパリは抜本的な都市改造からたった50年しか経っていませんでしたから。

コルビュジエの計画は当時フランスにあった自動車メーカー・ヴォアザン社が出資してまとめたもので、そもそもの目的はパリを車の街にしようという提案だったんです。

実は世界の先進国の都市では、この計画の実践例はあまりないんですが、日本で実現しました。例えば、豊洲です。

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そもそも、日本の建築界はコルビュジエの影響を強く受けています。東京大学の建築の大先生たちがコルビュジエの影響を強く受け、その弟子、孫弟子と受け継がれた結果、これが良好な都市型計画のパターンになったんです。

豊洲の場合、広い道に緑があって確かにきれいですが、実際歩くとつまらない。緑地以外、店もなにもないからです。

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武蔵小山駅前には、160店舗ぐらいの小さい店が密集する、通称「暗黒街」と言われる飲屋街がありました。戦後にできた闇市が徐々に常設の建物になり、70年代ぐらいからスナック街に変わり、最近は若者向けの立ち飲みバルなどができていた。それが昨年12月に全部潰され、今は140メートルのタワーマンションを絶賛建設中です。

三軒茶屋や京成立石、新橋の人気の飲屋街も、ゆくゆくはこうなります。

こういう再開発がなぜ行われるのか。古い横丁は防災上危険で、経済的に不効率なエリアとしてクリアランスされます。それを惜しむ声はノスタルジーとして片づけられ、まともな議論すらされません。問題は、都市の魅力を図るものさしにあるのではないかと考えました。

都市を評価する尺度はいろいろあります。そのうちのひとつ、東洋経済さんによる『住みよさランキング』は、全国の約800都市を対象に毎年実施しているもので、最近は4、5年連続で千葉県印西市がランキング1位になっています。

実際に印西市が住みやすいか否か、魅了的かどうかはさておき、ちょっと意外じゃないですか?

この『住みよさランキング』は、安心度・利便度・快適度・富裕度・住居水準充実度という5つの観点から都市を評価しています。具体的には、人口あたりの病院の数、大型小売店舗の面積、公園面積、新築住宅着工数、持ち家世帯比率、住宅延床面積など。

つまりはより新しく大きな建物や施設がたくさんあればいい、郊外に住宅街を作りショッピングモールを作ったらランキング上位になる構造です。人口が増加し都市が拡大している成長期に適応した、完全に工業的な発想です。

土谷さんのお話にもあったように人口が減って高齢者が増えていく国で、これでやっていけるんでしょうか。

ヤン・ゲールさんというデンマークの有名な都市計画プランナーは、

『街は、人々が歩き立ち止まり、座り、眺め、聞き、話すのに適した条件を備えていなければいけない。これらの基本的な活動は、感覚器官や運動器官とつながる。つまり都市は体で経験するものだ』と言っています。

『官能都市』は、この考え方に従って都市を動詞で測ろうという試みです。『その街に何がどれぐらいあるか』と名詞で測るのではなく、『その街で何をしたか・するか』を物差しにするのです。

重視したのは、知らない人同士が集まる都市で、知らない人とどう関わっていくかという『関係性』と、実際にここにある体で経験できる『身体性』。具体的な評価項目は以下の通りです。

 

  • 関係性

1)共同体に帰属している

 お寺や神社にお参りをした

 馴染みの飲み屋で店主や常連客と盛り上がった

 買い物途中で店の人や他の客と会話を楽しんだ

 地域のボランティアやチャリティに参加した

地元感があるかどうか、ということです。都市にはよそ者ばかりが集まっていますから、『神田生まれの江戸っ子』などといった生まれ育ちを聞いてもしょうがない。それよりも、こういう行動が地元感をもたらすのではないかと考えました。

 

2)匿名性がある

 カフェやバーで 1人自分だけの時間を楽しんだ

 平日の昼間から外で酒を飲んだ

 夜の盛り場でハメを外して遊んだ

 不倫のデートをした

都市生活者は、共同体に属していると同時に、一人になりたい、匿名性もほしい。自分の行動が筒抜けの町には住みたくないわけです。ということでこんな項目を設定しました。

 

3)ロマンスがある

 デートをした

 ナンパした/された

 路上でキスした

 素敵な異性に見とれた

人がたくさん住む町で当然ロマンスは期待される。職業おなじぐらい大事じゃないかと思います。

 

4)機会がある

 刺激的で面白い人達が集まるイベント、 パーティに参加した

 ためになるイベントやセミナー・市民講座に参加した

 コンサート、クラブ、演劇、美術館などのイベントで興奮・感動した

 友人・知人のネットワークで仕事を紹介された・ 紹介した

いろんな刺激を受ける、面白い人たちがいっぱいいる、こういう場にでかけていける、そんな経験があるかどうかを聞きました。

 

  • 身体性

5)食文化があること

 庶民的な店でうまい料理やお酒を楽しんだ

 地元でとれる食材を使った料理を食べた

 地酒、地ビールなど地元で作られる酒を飲んだ

 ミシュランや食べログの評価の高いレストランで食事した

うまいものがあるかどうかは、その都市に住む立派な理由です。観光においても重要な要素です。

 

6)街を感じられること

 街の風景をゆっくり眺めた

 公園や路上で演奏や パフォーマンスしている人を見た

 活気ある街の喧騒を心地よく感じた

 商店街や飲食店から美味しそうな匂いが漂ってきた

景観のよしあしを工学的に測ろうとすると難しく複雑ですが、町の風景をゆっくり眺めた経験がたくさんあれば、眺めるに価する風景があると考えました。

また、『街の活気』って、決して歩行者人数ではないですよね。喧騒が心地いいとかおいしそうなにおいが漂ってくるのはいかにもエネルギッシュ。そんな経験があるかどうかで測れるんじゃないでしょうか。

 

7)自然を感じること

 木陰で心地よい風を感じた

 公園や水辺で緑や水に直接ふれた

 美しい青空や朝焼け・夕焼けを見た

 空気が美味しくて深呼吸した

緑が多くても、柵に囲われて中に入れなければあまり意味がない。直接緑に触れることができる、空気がおいしい、という経験があるかどうかが大切だと考えました。

 

8)歩けること

 通りで遊ぶ子供たちの声を聞いた

 外で思い切り身体を動かして汗をかいた

 家族と手を繋いで歩いた

 遠回り、寄り道していつもは歩かない道を歩いた

先ほどの再開発の道路がつまらないのは、最短距離で移動するためのコース、つまり効率のための道路だからです。それよりも、路地の先になにがあるのかなど、ちょっとした冒険があるほうが面白いのでは。

安全性についても、信号やガードレールや監視カメラが充実しているより、通りで日常的に子供が遊んでいるのが安全な街の証拠ではないか、ということでこれらの項目を設定しました。

 

 

「官能都市」には多様なるものが混在している

以上の項目について『あなたが住んでいる町で過去1年間に、こういうことをどの程度しましたか』とアンケートを取り、ランキングを作成した結果がこちらです。調査対象は、全国の県庁所在地と政令指定都市。東京・横浜・大阪に関しては区レベルに細分化しました。

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センシュアス・シティ ランキング

ベスト4を見ると、全体のバランスが良い上に、『町を感じる』や『歩ける』など、身体性の指標に特徴的な強みがあることがわかりました。

東京の港区、千代田区、中央区、渋谷区などの都心エリアは、匿名性、ロマンス、チャンスがある。この関係性のほうに大きく張り出しているのが特徴になります。

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地方都市でランクインしているところは、特に食が強い。おいしいものが食べられる町って、出張したときもなんとか泊まっていけるようスケジュールをやりくりしますよね。

さらに重要なのは、こうしたセンシュアス・シティの実際の住み心地です。

『あなたは今の町に住んで満足していますか』という質問に10点満点で答えてもらったところ、センシュアス・シティのランキングが上位であるほど、満足度の得点が高くなるという傾向が統計的に認められました。

センシュアス・シティが実際にどんな都市かも調べました。

ランキング上位の街には、『ちいさな居酒屋』『酒場が集まった横丁』『こだわりの喫茶店、カフェ』『高級レストラン』『デートに使えそうな雰囲気あるバー』など個性的な個人経営店が多い。

大型チェーンの居酒屋やファストフードなどもあるけれど、個人経営の店がたくさんあることがセンシュアス・シティの大きな条件で、チェーン店しかないとセンシュアス度が低く、住んでいる人の満足度も下がるんです。

住人についても聞きました。職業年齢収入など多様な人が住んでいるか、外国人がたくさん住んでいるか、等、多様な人たちが住んでいるのがセンシュアス・シティのランキング上位とはっきりした相関があることがわかりました。

今から50年ほど前、ジェイン・ジェイコブズというアメリカの都市思想家・運動家が「都市は多様性が大事で、多様性を生み出すには都市に4つの原則がある」と言いました。

この4原則は、『用途の混在』『新旧の建物の混在』『路地がたくさんある』『人が密集している』というもの。コルビジュエ的な都市計画と真逆の考え方で、これもセンシュアス・シティのランキングに全部当てはまります。

ジェイコブズ以降、欧米では都市に対する考え方が大きく転換し、コルビジュエ的都市観は現実に即していないということがコンセンサスになっています。日本はまだコルビジュエ的なものを追いかけていますが、都市に暮らしている人たちの実感値から、既にそういう時代ではないということが確認できたのです。

都市の未来を考える上で、人間の本能的なもの、官能を大事にしないと、見た目にはきれいでもつまらない街ばかりできてしまうんじゃないか、という提案でした。ありがとうございました。」

 

 

前回のオリンピック開催時から、都市のOSは進化しているか?

——鼎談

竹村 「もうすぐ2度目の東京オリンピックが開催されますが、都市の考え方、OSが前回1964年の頃と変わっていない感じがします。

50年前はとにかく若者人口が多くて、彼らが健全な体を養い国力を支え……という時代でした。ところがこれからの高齢化社会、何らかの不自由や障害を持つ人が増えていきます。そういう状況を許容する街を作るというとき、スタジアム中心的すぎる気がします。

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つい歩きたくなる、走りたくなるような、日常がスポーツになっていくような街作り、それがこれから高齢化社会のオリンピックシティがめざすところなのかなあと考えたりするんです。

センシュアス・シティというご提案は、体を持っているというAIと人間との決定的な違いが最大化されていくようなものでもあると思いました。」

 

島原 「そのお話と関連するデータがあります。『歩ける』という指標で全国1位が文京区だったんです。文京区って、坂、階段の多さは都内屈指。ここから考えると、ユニバーサルとは必ずしもバリアフリーを意味しないかもしれないと気づきます。もちろんバリアフリーは必要ですが、全部フラットにすればいいというものではないという気がします。

まずは歩きたくなることが大事だし、本当に歩きにくいところでは、障害を持った方や年配の方を周りの人が手伝ってあげることを考えたほうがいい。全部自己責任で歩けるようにするのも味気ないと思います。」

 

竹村 「東京はアップダウンが多く、ある意味物語のある地形ですね。」

 

土谷 「世界の美しい町トップ100には近代都市がひとつも入っていないと聞いたことがあります。そこに都市計画の限界性が問われている気がします。

美しいといわれる町や村は、地形に沿って自然発生的に時間をかけて積み上がってきた。つまり、人は計画的でないものに心地よさを感じるので、あるものをうまく使っていくことが大切ではないかと思いました。

もう1つはスケールの問題。大規模であることより、小さいものの集積により多様性を兼ね備えている、そんな都市のあり方が問われている気がします。

それと、確かに『オリンピック=スタジアム』は20世紀的と感じます。都市そのものをオリンピックだけでなくあらゆるイベントの装置にしていくことができたら面白いと思いました。」

 

島原 「近代的な都市計画も、工業中心の産業構造で人口が急増する状況では必要だったとは思います。特に日本の場合は戦争で焼けてしまいましたから。

それ以前の江戸は非常に計画的な都市ですが、テクノロジーが十分でないから、元の地形や自然環境とうまく折り合いをつけざるを得なかったんです。ですがそのほうが心地いいとなると、テクノロジーが飛躍的に発展した現在でも、生き物としての人間の身体はそんなに変化していない、ということかもしれません。」

 

竹村 「さすが、単純な懐古趣味では終わらない。だからこそお招きしたお二人です。

このように人間を軸にした感覚を持って新しい街を作っていくためには、先ほどご紹介いただいたLIXILの水回りユニットや、エネルギー機関になりうる燃料電池車のような技術が、自由の翼を提供してくれるかもしれない。

ただ、我々自身がラディカルな発想を持たないと、技術の奴隷となって20世紀型の都市を再生産するだけではないか。お二人の発表にはそういう問いかけがあったと思うんです。

そこでもう一度、昔ながらの日本家屋のように、間仕切りを開ければ広間になる、ちゃぶ台をおけば食卓になる、みたいな都市のあり方を実現していくための実験を、日本が先導してやっていけたらと思うんですね。

もうひとつラディカルな提案をしたいんですが。

緑の地球は最初からあったわけではなく、酸素のなかった地球で光合成バクテリアが大繁殖して酸素を出し、大気を変え環境を変え、その酸素の一部がオゾン層に変わり、紫外線を遮蔽してくれるようになったので植物がやっと上陸できるようになって、緑の大陸になったと。

何をいいたいかというと、人間が行使する影響力や使うエネルギーはこの100年で1000倍くらいになり、生命が地球を進化させてきたのと同じように人間が地球を変えつつあることは確かです。それをどうポジティブな形にしていくか。

『触れる地球』では地球温暖化のシミュレーションを見ることができます。

今のまま化石燃料を使い続けると黄色く白熱した地球になってしまいますが、パリ合意に沿って2050年までにCO2排出量を半減、2070年までに0にすると全然違う地球が見られます。シミュレーションですからこの通りになるかはわかりませんが、力の使い方次第で地球の命運は変わります。

人間の暮らし方の象徴が住宅であり都市ですから、都市の未来イコール地球の未来、という時代に来ているんじゃないかということなんです。

これは人類史上なかったことです。

都市の未来は地球の未来をつくっていくプロセスであり、人間の未来と地球の未来両方をデザインしていくお話だったんだと思いました。

最後に一言ずつお願いします。」

 

土谷 「2050年まであと30年。これから都市をどう作るかにより地球の未来が変わるとするならば、本当にもっと考えなきゃいけない。

全く新しい都市を作るのではなく、もともとあるものに少しだけ手を加えていくような都市計画とか、エネルギーについても今までと違ったシステムが必要です。それはテクノロジーがサポートしてくれる時代になると思うので、今までとは違う進化の過程を実現できるんじゃないかなあ。ぜひ今後も議論したいですね。」

 

島原 「先ほどのように『横丁楽しかったのにつぶれちゃった』みたいな話をするとレトロ趣味と言われがちですが、そうじゃないということを、都市にはヒューマンスケールが重要なのだということを、新しいものさしを提案してデータで示したつもりです。

ただ、バラックから自然発生的に出来た建物群はまだたくさんあり、そのままでいいというわけでもない。エネルギー効率は悪いし耐震性もないですから。かといって全部タワーマンションにしなきゃいけないということでもなく、できれば今の形のまま少々内側をいじって耐震性やエネルギー効率を向上させるとか、そんな技術の使い方、進化の仕方もあるだろうと思います。

事実、欧米の建物ではそういう改修を実施しています。日本でももう少し人の感覚的に合う形でテクノロジーの使い方を考えるべきかなあと思っています。」

 

竹村 「逆に言えば、日本の断熱性能の悪い家について、やれることはたくさんあるということですね。たくさん伸び代があるということを確認しながら2030年、ここまで行こうじゃないかという句読点の点としようと思います。

ありがとうございました。」

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