地球未来塾【森】 隈研吾(建築家)9/25開催レポート

2016.11.24

「地球未来塾」第4回目のテーマは【森】。この日のゲストは、新国立競技場を手がける日本を代表する建築家・隈研吾さんです。これからの建築・街づくりを考えることは、私たちの未来を大きく変えるチャンス!そう考えるモデレーターの竹村真一(触れる地球ミュージアム プロデューサー)が、「なぜ新国立競技場を木で作るのか」「未来の建築はどうなる!?」といった興味深いお話をじっくりと隈さんにお聞きました。
 


どうして木の建築が地球のためになるの?

子供から大人までたくさんの参加者の方にお集まりいただいたこの日、まずは竹村による「触れる地球」の解説からスタート。わたしたちが暮らす地球をリアルタイムで観察します。そこには、地球温暖化が引き起こす、未来の真っ赤な地球の姿も。しかし、わたしたちの選択によって、その未来は確実に変えられる大きな可能性を持っていると、竹村は力強く話します。

DSC09000竹村 「木で街を作る、そして森を再生していく。それがいかに地球の未来にとって大事なのか。こういうことを、今日は隈先生をお招きしてお話ししていただきたいと思います。隈先生、どうぞ!」

 

隈 こんにちは。今、竹村さんからあった地球規模での非常に重要な話、それといま僕が設計している新国立競技場の話は、実はすごく関係があるんです。日本製の木をなるべくたくさん使って建物を作ることが、とても大切だと思っているんですね。でも、木を使うのがどうして地球環境にいいのか?

僕も子供の頃は、木を使うってことは木を切っちゃうわけだから、地球環境に悪いんじゃないかって考えてたんです。でも、木を切るってことがどういう意味を持っているか、研究が進むごとにだんだんとわかってきました。今日はその話をしようと思います。」

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 「まず、地球温暖化は二酸化炭素の濃度が高まって起こっているというのは、みんな知ってるよね?じゃあ、木っていうのは、二酸化炭素を光合成によって吸収するっていうことも知ってるかな?

木は自分の中に二酸化炭素を取り込んで固定化できる。だから、木を(燃やさず)そのまま使うこと、つまり木の体の中に二酸化炭素を溜め込んでもらってそれを長持ちさせる(何十年も使う)ということが、実は地球上の二酸化炭素を減らすのにすごく役に立つ!そんなことが科学の研究で分かってきたんですね。」

 

竹村 「なるほど。木を燃やしちゃったらまた二酸化炭素が大気に戻ってしまうけど、そのまま建物に使っていけば、大気中から植物が引き算してくれた二酸化炭素を保っていられるんですね。」

 

 「そうなんです。そこで忘れちゃならないのが、ただ木を放って大きくすれば良いのではないということ。木はだいたい60歳以上になると、だんだん二酸化炭素を体の中に固定する能力が落ちてしまうんです。」

 

竹村 「老人の木ばっかりの森だと吸う力が弱いんですね。若い木も適度にいないとダメだと。」

 

 「人間社会と同じで、絶えず赤ちゃんができて循環するってことが、森にとっても大切で。そのためには、木を切って、木を使って建物などを作るということが必要。そのことがわかっていたから、人間は大昔からそうしてきた。」

 

竹村  「つまり『森を守れ!』と言って木を一本も切らないということは、本当に森が減ってきてしまったところでは必要かもしれない。だけどある程度、木があるところでは適度に散髪して、森を若返らせることが必要なんですね。」

 

 「そういう自然の循環を作るってことが、地球環境にとって一番大事だと、最近の研究で分かってきたわけです。」

 

竹村  「だから木で建物を作るってことですね。」

 

 

日本の木を使う、本当の理由

次に、スクリーンには名建築家・丹下健三の代表作である代々木第一体育館が映し出されました。コンクリートと鉄の建築物の中でも、20世紀のトップのひとつと言われているこの建築を、隈さんはじめ日本の建築家たちは世界遺産にしようと働きかけているのだとか。

DSC08880 「それくらいすごい建築なんだけど、コンクリートと鉄っていうのは、実は二酸化炭素をすごく出す材料なんです。コンクリートは南洋材という南の方の木で型枠を作っていて、それを(使ったら)すぐに燃やして林をどんどん無くしてしまう。だから、地球環境をすごく破壊する材料だったんです。」

 

竹村 「コンクリートとか鉄は、作る段階でもたくさんエネルギーを使い、石油を燃やしてCO2を出すし、木材も相当乱伐しなければならなかったんですね。」

 

 「で、これが新国立競技場です。まず木がたくさん使ってある。しかも、日本の木を使うってことが重要なの。それは日本が好きだってことも、もちろんあるけどね(笑)それだけじゃなくて。

今は海外で安い木があるけど、それを日本に船で持ってくる時に二酸化炭素をたくさん出してしまう。でも日本国内の木だと、(運ぶ時に)そんなに二酸化炭素を出さないで持って来られる。

DSC08889それからもうひとつ大事なことは、日本の木を使うと自然の良い循環が生まれるから、日本の森が良い状態を保てるんですね。

さっき話したように、森を放ったらかしにすれば健康状態が悪くなって、水分を森の中に保てなくなる。雨が降った時に、若い木がいる健康な森は、保水作用があって水を土の中に保っておける。でも、年寄りの木ばかりで健康状態の悪い森は、保水作用が無くて大雨が降るとそのままダーッと水が流れちゃうんです。すると何が起こるかというと、洪水です。

最近、洪水が多いでしょう。なんでこんなに多いかっていうと、地球の気候が不順だっていうことがひとつ。もうひとつは、森が健康でなく保水作用が無くなっているからなんです。」

 

竹村 「決して老人の木がいちゃいけないって言ってるんじゃないんですよ(笑)やっぱり健康な森っていうのは、大きく育った木がちゃんと根を張っていて、その間に若い木が育つことでCO2も吸収していくという。そのバランスが大事なんですね。

全く木を切らないで『保護』ばかりしていると、じつは森が健康じゃなくなる。だから、適度に使って適度に循環して、木の建築がこうやって街にできればできるほど、森も健康になるんです。それが21世紀のやり方だということですね。」

 

 

新国立競技場の秘密は、法隆寺にアリ!?

 「新国立競技場のデザインの特徴のひとつは、このヒサシ。4つのヒサシが重なったようなデザインになっていて、これがすごく重要なの。

DSC08901次に、これは奈良の法隆寺の五重塔。5つのヒサシが重なってるから『五重塔』っていうんだけど、日本の古い建物はこうやってみんなヒサシを出していた。するとどういう良いことがあるでしょうか。

DSC08902ヒサシが太陽の光や雨から木を守って、長持ちする。法隆寺は世界の一番古い木造建築と言われているんですが、建ってから1400年保ってるんです。それは、ヒサシの下で木を守るということができたから。木はそのまま晒されると弱いので、10年から20年で取り替えなければならないんだけど、ヒサシに守られれば1400年も木が長持ちする!日本人はそういうことがわかってたわけです。」

 

竹村 「考えてみると、20世紀の『鉄とコンクリートの代表作』という丹下健三の建築は、建って50年です。鉄とコンクリートの建築って、100年保てば良い方ですよね。」

 

 「そうなんです。僕も子供の頃は『コンクリートで作れば建築が無限に長持ちする。木の建築なんて長持ちしない』って感じてました。多くの日本人がその頃そう感じていたんですが、実際は逆!コンクリートの建築は100年保たせるだけで大変。

コンクリートはどうしても収縮します。時々コンクリートにヒビが入ってるのをみんな見たことあるでしょう?あのヒビから雨水が入ってきて、中の鉄筋が見えないうちにサビてわからなくなってしまう。実際に、代々木第一体育館の改修には100億円くらいのお金をかけなきゃならない。コンクリートの建物はそのくらい長持ちさせるのも大変だし、改修にもお金がかかります。」

 

 

木の建築は生命体に近い、未来の建築

 「法隆寺の場合は、1400年建っている間に傷んだ部材が見えます。見えるから、そこだけ取り替えるってことが木だとできるんですね。」

 

竹村 「それすごい重要なことですよ!コンクリートの建築は修復しても100年が限界で壊す時は全部壊さなければならない。ところが、木の建築は傷んだところだけ取り替えれば良い。

ここにいる子供たちも、毎日すごい新しい細胞が生まれて、古い細胞が死んで入れ替わっている。歳を取っても、ちょっとスローにはなるけど一日2~3千億くらいの細胞が生まれ変わっている。だから、僕らは毎日新品になり続けている。部材を取り替えて生きてるわけですね。

そういう生命体に近いような…部材を替えてずっと1400年保つ建築。これって新しくないですか?最古の建築だけど、むちゃくちゃコンセプトは新しいですよね。」

 

 「そう、生物の体に似てるっていうのすごいですよね。」

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竹村 「生まれた時は3頭身くらいの赤ちゃんが、大きくなって8頭身美人になれるのは、毎日ちょっとずつ部材を入れ替えながらプロポーションを変えていくから成長できるし、怪我も治るんですよね。

未来の建築って、そんなふうにちょっとずつ部材を入れ替えてプロポーションを変えたり、傷が治ったり…そんな生きてるような建築になるんでしょうか!?」

 

 「それが建築の理想で。やっぱり生物の体ってモデルになるんですよ。

コンクリートの建築は100年保ったとしてもそこで限界がきちゃうんですが、そういうことはあまり考えず、世界中で手に入り同じものができるので、20世紀の工業化社会の中で人間は単純に考えすぎてしまったんですね。」

 

竹村 「それに、コンクリートの原料は石灰岩。石灰岩は太古のプランクトンやサンゴや貝が、空中から海に溶け込んだCO2を固定化してできているんです。それをまた人間が大気に返してしまうようなものだから、生物が長年かけてきた地球環境に対して僕らはあまり良いやり方をして来なかった。森を循環させていくっていう木の建築は、地球に寄り添う建築かも知れないですね。」

 

 

新国立競技場は楽器のような建築!?

 「さて、オリンピックスタジアムの中に入るとこんなふうになってます。開会式では8万人が入ります。現在はまだ20世紀の法律が変わっていないので木と鉄を(併せて)使っていますが、じつはもう未来の技術では木で全部作れます。将来的にこんなものも全部木だけで作れるようになったら、素晴らしいと思うんだよね。」

DSC08904竹村 「ここで8万人がワァーッとなったら、それだけで音楽になりそうですよね!」

 

隈 そう、木って音も良い響きをするから、コンクリートとは違う柔らかい盛り上がりができると思うんですね。」

 

竹村 「なんかこれ、ちょっと何かに似てません?バイオリンの中に入って、穴から空を見てるような…ある種の木の楽器みたいな。」

 

 「たしかにね!僕もリオの開会式に行ったんですが、ものすごい音がワァーッとなってスタジアム全体が響いてるの!そこで『スタジアムは楽器だ』って、同じこと考えたんですよ(笑)」

 

竹村 「そうすると鉄では響かないですからね。木でないとダメということになります。」
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これからの東京の街づくりのヒントに

 「さらに、新国立競技場の断面図を見ると、大きなヒサシが重なっていることがわかります。ヒサシの形は、神宮の立地や季節による風向きをコンピュータで算出して決められているそう。方角によっても、木の角度と板同士の隙間が細かく変えられているというから驚きです。そのヒサシに沿って、スタジアムの中は心地よい風が取り込まれり、寒い風が入ってこないようにしたり…。」

 

竹村 「ということは、ほとんどエネルギーを使って冷暖房をしなくて済みますね。」

 

 「そうですね。東京の外苑前の風で、一番快適な環境ができるようにこの形が決まっている。東西南北では風の向きが違うので、全部変えているんです。」

 

竹村 「僕は隈さんが当代一流の日本を代表する建築家だって言っても、ただ単にすごいもの作ってるぞ、ということじゃないと思っていて。こういう未来の地球のヒントをいっぱい作っていらっしゃる。地球環境と対話する建築ですよ。風の流れに沿う、人の声で響く楽器にする、生命体のような細胞循環もするような建築を作りながら、森も元気にしちゃう。建築家の仕事はものすごく広がりますね。」

 

 「本来、建築家は自分の建築物のことだけじゃなくて、まわりのシステム全体を考えなきゃいけない人だと思うんですよね。」

 

竹村 「建築家の力はすごく大きい。建築家がどんな建築をするかによって、まわりの国土や森まで元気になり得る。東京もこれ(新国立競技場)をヒントに、新しく生まれ変わるんじゃないですか?」

 

 「そう、これからの東京の街づくりのヒントになればいいと思っていて。

東京は昔、木の街だった。木でできた1~2階建ての建物で人口何百万という都市の機能をまかなってきたわけだから、それも夢じゃないと思うんですよ。

なさん、そう聞くと『火事は大丈夫か』って心配になるでしょう。それが、木の『不燃化』というのができるようになったんです。昔は東京もロンドンも火事がたくさんあったんですが、ここ20年くらいで世界中で競争して、木の不燃化のものすごい技術革新があって。それだから、こんな木の建築ができるようになったんです。」

 

 

木のクセを読む宮大工の仕事

 「僕自身が木を好きになったのは、子どものころ木の積み木でばかり遊んでたから。君たちにも木でできた積み木で遊んで欲しいと思ったので、今日は僕がデザインした木の積み木を持ってきました!」

 

竹村 「これ、隈さんデザインだったんですね!」

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 「そうなんです。宮崎県の杉で作ってあって、まだいい匂いがしますよ。それでね、この三角形のところを強くするために、ただ接着するんじゃなくて一本別の部材を組んでいるという、日本の職人の高い技術で出来てるんです。」

 

竹村 「これそのものも組んであるんですか。」

 

 「これは普通の四角い積み木じゃないので、いろんな遊び方や積み方ができます。僕が思ってもみなかったような形を作って、写真を送ってくる人もいるんですよ。」

 

竹村 「じゃあぜひトークが終わったら、みんな遊んで行ってくださいね。それにしても、これは良いおもちゃを作りましたね。それで思い出したんですが、法隆寺などを作る宮大工さんは、木のクセを組むって言いますよね。」

 

 「それは、さっき細胞が入れ替わる話をしていたように、宮大工さんも木を生き物だと考えてたから。木の生き物としてのクセを読み込んで、『南の角には森のこの辺の木を、同じ南向きで使おう』というようにクセに応じて使ってた。きれいに木を切れるだけが宮大工の技じゃなく、木のクセを全部読み込むのが宮大工の技だったんですね。

『300年立った木は、300年保たせなければならない』と彼らは考えてて。そういうふうに、長いスパンで建築を考えるという、今でいうサスティナビリティの思想が日本には昔からあったわけですね。」

 

竹村 「300年保つ建築を作れば、その間にまた樹齢300年の木が育つので、森を減らさないで循環していける。それはもう、単なるひとつの建物のデザインじゃないですよね。」

 

 

「1000年の尺度」を思い出す

竹村 「今『1000年』という言葉が出ましたが、3.11.東日本大震災以来、隈さんは『1000年の尺度』を取り戻すチャンスだとおっしゃられている。そのお話を最後にお願いします。」

 

 「だいたい僕らはどのくらいの尺度で物を考えていたか。20世紀は東京の建物は、20年おきくらいで全部建て替わっていました。20年くらいの尺度でしか考えていなかった。」

 

竹村 「よく『バブル』っていうけど、本当にそうですよね。20年くらいでポーンと弾けてしまう、そんな建築、街だった。」

 

 「20年で建物作り変えてたら、それはもう二酸化炭素放出しまくっていて、そりゃ地球はすぐに灼熱地獄になっちゃう。それをどうやって長いスパンで考え直せるか。

コンクリートでやる限りは、どう考えても100年コンクリートが今の課題でそれはすごく難しい。でも木を使うとね、100年、200年じゃなくて、1000年というオーダーが可能になってくる。そこで僕らはやっぱり発想の転換をしないといけない。そういうふうに思うんです。」

DSC08941竹村 「ですから、この新国立競技場が君たちのお孫さん、ひ孫さんが使う頃になって、部材はだいぶ入れ替わっているけど同じデザインでまだ建っているーそういう建築になる。そして、東京全部が、世界全部がそうなれば、相当違う地球になるなという感じがしますね。

どうもありがとうございました!」

 

 

木の不燃化が叶える未来

最後に、隈さんのお話でもあがった「不燃の木材」を作っている第一人者、株式会社シェルター代表取締役・木村一義さんが、これからの木材建築の可能性について語ってくださいました。

DSC08946木村 「常にイノベーションを伝統としてやってきた私たちが、今次に取り組んでいるのが、燃えない木造建築です。2時間耐火で4階建てのビルが、この丸の内にも建てられます。今すでにさまざまな許可を取って、実現しようとしています。

日本は木造が伝統の国ですから、ヨーロッパやアメリカに負けていられません。日本から木造都市を発信し、全体の30パーセントを木造建築にする目標があります。18世紀は世界の街は木造、19世紀は鉄とガラス、20世紀はコンクリート、21世紀の今は16パーセントくらいまで木造になっています。

そんなことで、日本から先端の木造建築を発信して、地球環境に良い建築、メンタル的にも安心できて癒しのある人に優しい建築を作っていきたいと思っています。

DSC08961木で建物をつくることが持つ、未来の地球を変える力や可能性について、たっぷりと知ることができた1時間。自分たちの住む街をつくることが、森を守り、地球を元気にすることが感じられたのではないでしょうか。」

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