地球未来塾【海】佐藤卓氏(デザイナー)8/21開催レポート

2016.09.15

2016.8.21. 地球未来塾【海】「海から地球を考える」佐藤卓氏

 

8月21日の地球未来塾のテーマは「『海』から地球を考える」。NHKEテレ「デザインあ」なども手がけるデザイナーの佐藤卓さんをお迎えし、丸の内・触れる地球ミュージアムプロデューサー 竹村真一とのトークイベントを開催しました。サーファーとしての顔もお持ちの佐藤さん。そんなグラフィックデザイナーと文化人類学者の二人から、どんな海の話が飛び出したのでしょうか?さっそく当日の様子をレポートします。

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サーフィンとデザインってつながるの?

この日も暑い中、会場には親子連れをはじめたくさんの参加者の方にお集まりいただきました。まずはいつものように「触れる地球」を使って、リアルタイムの地球を様々なデータをもとに見ていきます。

 

竹村 「こんな地球儀を作りながら、情報デザインやコミュニケーションデザインにはもっと違う形があるんじゃないかと佐藤さんと話していく中で、「water」展や「コメ」展を一緒にやってきました。では、デザインのマスターであると同時に、新しい子供達へのデザイン教育を展開していらっしゃる稀有なデザイナーである、佐藤卓さんをお迎えしたいと思います。」

 

大きな拍手に包まれて、佐藤卓さんが登場です。

 

竹村 「佐藤さんは年に一回はこの地球儀を見てくださってるんですよね?」

 

佐藤 「もちろんです。本当は持っていたいくらいです。」

 

竹村 「『水球』としての地球を語るのに、サーファーでもある佐藤さんはまさにふさわしい方です。」

 

そう言いながら竹村先生がスクリーンに映し出したのは、颯爽と波に乗るサーファー姿の佐藤さんの写真。「わぁ、はずかしい!」と照れるご本人に、会場のみなさんも笑顔になります。

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佐藤 「動いてる水の上に二本の足で立つって、普通の人生ではたぶん経験しないんですよね。一回やったら病みつきになりました。」

 

竹村 「先祖は人類が直立歩行して水の上にまで立つなんて、思わなかったでしょうね。」

 

佐藤 「そうでしょうね。最初はただ一枚の板の上に乗る遊びとしてやっていたそうです。」

 

竹村 「デザイナーとしてのお仕事と、こうした『水遊び』はどの程度かかわりがありますか?」

 

佐藤 「最初はデザインとサーフィンを無理につなげるつもりは別になくて。でも、それがだんだん自分の中でつながってきたんですよ。」

 

竹村 「具体的にはどういうことでしょう?」

 

佐藤 「水ってとてもデリケートなセンサーのようなもので。たとえば、さざ波などは自然の変化を私たちにとてもわかりやすく見えるようにしてくれている。その自然のリズムに板一枚で合わせていく…すると大自然っていうものに対して、畏敬の念が自分の中に生まれてきました。そこがデザインも基本的には同じなんじゃないかと思うようになったんです。」

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竹村 「佐藤さんはウイスキー『ピュアモルト』のパッケージデザインで、それまで不透明が一般的だったウイスキーのボトルを、中身の良さがそのまま見えるようなとても透明なデザインになさいました。人間が付け加えておおい隠してしまうようなデザインではなくて、佐藤さんは逆にモノとか自然が持っているものを引き出しているように感じます。それと今のお話はすごく関わるように思いますね。」

 

佐藤 「デザイナーはだいたい余計なことをすることが多い。みなさんも日常生活の中でそう感じることはありませんか?緑豊かな景色の中に、派手な人工的な色の看板って必要なのかなとか。本当にそれって必要なのかな?ということを、お金儲けのためにやらざるを得ないことが、特に20世紀には多かったと思うんです。目の前のやらなきゃいけないことをやりつつも、地球規模で俯瞰で考えた時、それが本当に良い方向なのか、デザイナーも考えなきゃいけないんじゃないかと思って。」

 

竹村 「それでより『自然』に入り込んで行かれたということですね。」

 

 

牛丼一杯から「スイッチ」が入った!

自然と戯れる体験の中から、デザイナーが果たすべき役割についての気づきがあったという佐藤さん。地球規模で物事をとらえる大切さに思いを馳せたところで、トークの内容はぐっと身近な私たちの日常のことになりました。

 

佐藤 「これは竹村さんに教えて貰ったことなんですが。みなさん、牛丼一杯にどのくらいの水が使われているか知っていますか?」

 

え?いきなり牛丼?と思いつつも、会場からは「100リットル」「1,000リットル」という声が。

 

佐藤 「みなさん、私より想像力がある。私は最初聞かれた時に2~3リットルかなと思ったんです。でも実は、2,000リットルですって!それはなぜだと思いますか?」

 

またもや会場からは「お米作り」や「牛が飲む水」といった意見が飛び出しました。

 

佐藤 「ピンポーン!今日のお客さんは意識が高いですね。牛が食べるとうもろこしを育てるためにもたくさんの水が使われている。そんなことを考えて牛丼食べます?5分で牛丼なんて食べちゃうでしょ!それから意識が変わったんですよ。」

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竹村 「そこから「water」展につながりましたね。生活用水に使われる水は実質100倍、食べ物に使われる水はだいたい1,000倍と思ってください。しかも、小麦やとうもろこし、大豆などは9割が輸入品なので、水の豊富な日本ではなく、アメリカやオーストラリアといった乾燥地の世界のなけなしの水を使っているんです。

というとネガティブな話ですが、逆に日本の自給率を上げれば、世界の水のストレスを減らしていくことができる。私たちの生活を変えることでけっこう世界を救うことができるとも言えるんです。」

 

佐藤 「一回スイッチが入ると意識が変わりますよね。」

 

竹村 「和食弁当を食べていても、それは『地球食弁当』なんです。シリアの内戦なども水不足、食料不足で追い詰められた人たちが起こしたとも言われています。世界の平和を進めようと思ったら、水や食料問題の解決がなければ、根本的解決にならない。そうした時に、日本って実はけっこうカードを持っている。そういったことを伝える仕事を、デザインなどに関わる人間として一緒にやりたいというのが昔からあるわけですよね。」

 

 

「かっこいい=デザイン」じゃない!深くて広いこれからのデザイナーの仕事

牛丼一杯にある背景から、私たちの住む地球が抱える水の問題、平和についてなどを考えるスイッチが押されたという佐藤さん。そこから見えてきた「これからのデザイナー」とは?

 

佐藤 「こどもへのデザインの番組が必要だということを、10年前からNHKに訴えてきて『デザインあ』という番組がスタートしました。デザインは誤解されているところがあると思っていて。『かっこいいもの』『かわいいもの』に施されているものだと思っている人が多いかもしれない。でもそれは違います。

かっこいいものだけがデザインというわけではない、と伝えたい。そう考えていた時に、竹村さんの水の話を聞いて。牛丼一杯に2,000リットルの水が使われているっていうのは、えー!?って驚けるくらい面白いことでもあると思うんです。こうしたことを多くの人たちにつなぐお手伝いが、デザイナーにはできるはずだと思ったんです。」

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佐藤 「形とか色とかを、どうやって社会に役立てるか考えるのがデザイナーです。それで番組や展覧会などのいろんな試みをしていて。だから、そう考えると竹村さんはこれからのデザイナーだと思います。文化人類学者としてだけではないですよ。だって10年前にはこんな『触れる地球』なんてものはなかったんです。リアルタイムの世界の状況がこうした形でわかる、これを考えるって、それはもうデザインですよね。デザイナーのあり方が21世紀になって変わってきている、変わらなきゃいけないと思います。」

 

竹村 「佐藤さんの中には苛立ちもありますよね。デザイナーはもっと社会的に意味のあることをできるはず。デザインの仕事はじつはもっと深く広くなっているのに、多くのデザイナーがそれをしていないじゃないかという。」

 

佐藤 「こんなに素晴らしいコンテンツがあるのに、デザイナーはもっとそういうことに目を向けないといけないと感じていたり…確かにこれは『苛立ち』と言ってもいいかもしれません。」

 

 

AIの存在が人間の仕事をもっとおもしろくする!

デザインという仕事が持つ大きな可能性に触れたところで、話はさらに最近注目度が増しているAIの存在にまで広がります。

 

竹村 「いま小学生が使っているメルカトル図法は信長の時代のもの。一応これは当時の大変なデザイン・イノベーションだったんですね。しかし現代では、北極の温暖化がシロクマだけじゃなく私たちのくらしにも影響してくるといったような、新しい情報が盛り込まれた21世紀の地図が必要です。

これ(触れる地球)は地球儀の形をしていますが、現代の情報デザインのひとつの形なんです。まだ無いものをもっともっと考えていかないといけない。」

 

佐藤 「小さい頃から、地球という丸いものがどうして平らになっちゃうのか不思議でした。」

 

竹村 「たまたま学校で与えられたものだけ見ていることで、いろんな想像力が狭まってしまっているんです。」

 

佐藤 「もっとこういうおもしろい話を、教えてもらえたら良かったのになぁ。」

 

竹村 「僕は今の小さい子達は、常識的なことはすべてAIが教えてくれる時代になると思いますよ。」

 

佐藤 「それでは先生は困りますね!」

 

竹村 「だから、人間の先生が教えるのはそれ以外のもっとおもしろい内容になる。他の職業だってそうです。AIのお医者さんにはできない、体だけでなく心に触れる診療というのは人間のお医者さんでないといけない。だから、もっとおもしろい時代になると思います。」

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佐藤 「竹村さんからいつも与えられる影響は、『ポジティブ』だということなんですよ。おもしろくなるんじゃないかって、いつも言ってくれる。デザイナーとしてもそう考えたいんです。

たとえば、オリンピックのエンブレムの問題だって、実はいろいろな問題提起をしてくれています。これから人工知能がデザインの現場にも入ってくる。そうすると、シンボルマークやエンブレムのデザインが、ボタンひとつで100案くらい出てくる時代になると思った方がいい。

じゃあ、人間がシンボルマークを作るってどういうことなのか、デザイナーが考えなきゃいけないんですね。それってすごくクリエイティブなことだと思うんです。そこで『デザイナーがごはん食べられなくなっちゃう!』とか言ってる場合じゃなくって、なんか逆に『よっしゃー!』という気持ちになります(笑)。」

 

竹村 「生半可なスキルはコンピュータの方が得意になってしまう。『HOW』より『WHAT』が求められる時代です。そんな中、人間がモノや素材と挌闘するという『HOW』は、AIにはできない。そこから新しい『WHAT』を生み出すかもしれません。」

 

 

「海の中で暮らす」としたら?

ここで質問タイムとなり、会場からは「海の中で暮らすとしたら?」という声が聞かれました。

 

佐藤 「それは面白いですね!こんなに素晴らしい惑星ってまだ見つかってないんですよね。だから外(宇宙)に行くのもいいけど、じつはその素晴らしさに気づいてない方が問題なんじゃないかと。いま、海水からエネルギーを作る方法が研究されてるようですしね。」

 

竹村 「実は私たちの展示の中にも、海で暮らすというコンテンツがあります。水位が上がっても大丈夫な、巨大なフローティングシティを作ろうと考える会社もあるんですよ。台風が起こらない赤道直下をゆるやかに移動しながら、自給できる都市を作る。狭い土地を取り合って争うのではなく、広大な海を活用していく。それも明らかにデザインですよね。

 

9月からは今のような思いっきり想像力の飛距離を伸ばした話をしようと思っています。21世紀のちょっと進んだ地球の見方や新しい技術の話を、ここからどんどん発信していきます。」

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10月14日から六本木・21_21 DESIGN SIGHTでは、佐藤卓さんがディレクションを手がける「デザインの解剖展」が開催されます。身近なものがどういうデザインでできているかを解剖して、楽しく知ることのできる展示なのだそう。

 

竹村 「そのうち『地球の解剖展』もお願いします!」

 

佐藤 「それは大変なことになりますね!また竹村さん、ご一緒に。」

 

竹村 「今日はどうもありがとうございました。」

 

佐藤 「ありがとうございました!」

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