CPV地球価値創造フォーラム2015 第3回 9/16 村瀬 誠氏 × 中宮 敏博氏 × 山田 健氏 × 竹村 真一

2015/10/18

 第3回 CPV地球価値創造フォーラム2015 Creating Planetary Value

9月16日(月)18:30〜21:30

プレゼンター

村瀬 誠氏(㈱天水研究所取締役/東邦大学薬学部客員教授)
中宮敏博氏(㈱LIXILグローバル環境インフラ研究グループ)
山田 健氏(サントリーホールディングス㈱エコ戦略部チーフスペシャリスト)

企画構成・司会  竹村真一(京都造形芸術大学教授/ELP代表/「触れる地球の会」理事)

テーマ:「水」

竹村理事による問題提起

IMG_3137-a このフォーラムは、CPV(Creating Planetary Value)フォーラムと呼称しています。人間中心主義を引きずったCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)をさらに超えて、他の生きとし生けるもの、地球全体まで含めた価値創造、そういうことを多くの企業でも実践おられますが。その問題解決が世界の役に立つ。そういう実感のもとにこのフォーラムを公開しています。

今日は「水」がテーマです。「水」については、課題として「少なすぎる水」と「多すぎる水」の二つの側面があります。

≪少なすぎる水≫

毎日のようにシリア難民、安保法制、中国リスク等々、いろいろな問題が取り上げられます。雑多なニュースのようですが、実は全てが関連し合っている。そして、この全てのキーワードのベースにあるのは「水」である、と私は思っております。

たとえばシリアの内戦と難民問題のベースは、2007年から4年間続いた非常に深刻な干ばつにありました。毎日、水も、食料も手に入らない。そうなると政権に対する不満は高まりますよね。これはアラブの春も同様でありました。ですから実は、水や食料など人間の基本に関わる部分を無視して、政情不安である、宗教紛争である、といった捉え方では十分ではありません。

会場に展示した地球儀では、人が利用する水は飲料水よりも生活用水が多いことから、世界中の水ストレスの状況を示しています。地球儀上で実際に水ストレスが激しい部分は、ヒマラヤ、チベット、中東のあたり、それから黄河では断流現象といって河口まで水が流れない現象が起きています。中国リスク、中国不安は経済に注目が集まっていますが、実は水や食料の問題が時限爆弾としてあるわけです。水の問題は、全てが関連してきます。中国が水不足によって国内で農業が停滞すると、その分を輸入することになります。中国が1割輸入するだけでも日本の人口分ですから、それが輸入大国として世界市場に突然、打って出ると、確実に世界中の食料が高騰し、多くの食料を輸入している日本にも多くのインパクトが出てくるでしょう。

また、世界中で10億人近くが安全な水にアクセスできず、衛生的な環境にありません。25億人が衛生的なトイレにアクセスできない状態にあります。おかげで200万人相当の子どもたちが毎年、感染症や下痢によって生命を落としている状況があります。けれども、そこに対して安全な、衛生的な水洗トイレは現実的ではないのですね。そういう環境にいる20億人に対して、水や電気がなくても十分にやっていけるトイレが必要なのです。すなわち便利な暮らしは電気やエネルギー、水を大量に使用されなければ成り立たないという20世紀の前提をリセットして、十分に衛生的で便利な暮らしができる技術が求められています。

そのような技術は、それはいわゆるBOP(bottom of the pyramid)と言われる、ピラミッドの底辺の低所得者層のためのものなのかというと、私はBOPをbase of the planetと読み替えています。つまり、これからの地球標準になっていくものである。

≪多すぎる水≫

温暖化、気候変動の影響で雨の降り方が極端になっている。一方、町中をコンクリートジャングルにしてしまうことによって雨のほとんど地面に浸透しなくなり、一気に下水に集まり、都市での「想定外の洪水」、「許容範囲を超える洪水」が起こるわけで、私たちの都市のバッドデザインが逆に洪水リスクを増やしているところがあります。

IMG_8200-1しかしながら、人間がつくり出しているリスクであれば、逆にリデザインすることもできるのですね。

例えば、2600トンもの雨水タンクを持つ東京スカイツリーは、実は都市の治水の最先進例です。これまで下水に流れ込んでいた雨を一時的にこのタンクに貯めるわけです。スカイツリーだけではなく、大きなビル、小さなビル、それぞれのビルでジグソーパズルのように小さな水を貯留すれば、下水に流れる水の量は減り、それだけ洪水を緩和していくことができます。上流でも田んぼに貯めるといったいろいろなことをしていくと、総合的に流域治水によって洪水リスクを相当低減することができます。

世界中の沿岸低地、いわゆるlow-elevation coastal zoneといわれる海抜10メートル以下の海岸部の、あるいは川沿いの低い土地に、世界中の何億人が暮らしているでしょう。日本だけでも人口の半分、そして社会資産のかなりの部分が沿岸低地に集まっていますが、世界全体を総合していくと10億人、20億人レベルの大きな「多すぎる水」のリスクがあるのです。

≪ピースウェポンとしての日本の水技術≫

多過ぎる水に対して、少な過ぎる水に対して、あるいは世界中で自然資本を壊しながら水を危うくしている。そういう問題に対して、日本にできることは何でしょうか。

先ほど、中東、シリア、中国など、地球は大変な時限爆弾を抱えているという話をしました。難民問題、紛争問題の解決、それを対症療法で行おうとしても、きりがありません。

しかし逆に、貧困、紛争、難民が発生する元である、とりわけ水問題について、日本が持つ水の技術を「ピースウェポン」として駆使して地球貢献をしていったとき、century of water(水の世紀)といわれる21世紀が、水が災いの源である世紀という今の定義ではなく、水惑星の祝福を感じられる世紀にしていくことがきっとできるはずです。

今日は、そういう願いを、単なる、漠たる願いではなく、本当にできるかもしれないという3つの試みをご紹介します。

講師:村瀬 誠氏(㈱天水研究所取締役/東邦大学薬学部客員教授)

テーマ:雨水の有効活用

IMG_8222-1私は1975年に墨田区役所に入ったのですが、当時は墨田区の錦糸町や両国あたりでは始終洪水がありました。下水が逆流するのです。最初のうちは下水道システムが問題だと思っていたのですが、いろいろ調査研究をしていくと、そうではなく都市の水デザインに問題があることに気付きました。そして、「雨水の有効活用」という視点から、都市の「ドレインシティからレインシティへの転換」を手掛けました。

IMG_8261-1また、バングラデシュでは、雨水を飲料に使うソーシャルビジネスを展開してきました。1996年には雨水の有効活用で博士号を取り、2002年に、「革新的雨水プロジェクト」でロレックス賞をいただきました。私自身、2002年の頃はまだそこまで予兆していなかったのですけれども、雨水の有効活用はひとつの大きなメインストリームになりつつあると確信しています。

IMG_8287-1 2015年3月、仙台で国連防災会議が行われました。国連の『防災白書』の表紙が“逆さ傘”です。これは竹村先生、それから日本を代表する著名なデザイナー、佐藤卓さんが提案されて、国連が採用したわけです。この“逆さ傘”のデザインが白書の各ページに入っております。この中に、“逆さ傘”のアイデア、コンセプトを私からいただいたと国連がきちんと書いてくれました。非常にうれしかったですね。

≪ドレインシティからレインシティへの転換≫

まず、都市の話ですが、「ドレインシティからレインシティへの転換」です。今までの都市のデザインは、「排出システムを整備して、いかに早く都市から雨水を追い出すか」でした。その結果として水循環が破壊され、非常に住みにくい環境になってしまった。のみならず、非常に水災害に脆弱な街になってしまったわけです。

 このドレインシティをレインシティに変えることが問われているわけです。つまり単純な発想ですけれども、フローからストックへ。そのストックの仕方は2つあります。1つは、雨水タンクに貯める方法。もう1つは、雨水を地下に浸み込ませて地下水として蓄える方法です。大きく言えば都市の水循環の中で、今までの都市の基本デザインであった「いかに雨を速やかにオンサイトからオフサイトに排除するか」ではなくて、「どのようにオンサイトで水を蓄えていくか」という、まさに発想の転換ですね。

都市型洪水の話以外に、渇水の問題もあります。自分の足元の水(雨水)は捨てておいて、遠方から水(飲み水)を持ってくる現状は、大変なエネルギーがかかっています。エネルギーが潤沢にあるときは良いのですけれども、値段が高騰し、枯渇することもあります。また、気候変動の影響で遠方の取水池に雨が降らなくなってくる可能もあるわけです。

世界中がそうですけれども、降れば大洪水、降らねば大渇水。この相反する現象が起きているわけです。これは食料危機とも関係してきます。そういうことで、フローからストックへの転換は、非常に根本的な問題提起であると思っています。

ドレインシティからレインシティへの転換のシンボルが、私が設計から携わった東京スカイツリーだと思っています。東京スカイツリーの展望ロビーを下からみると“逆さ傘”に見えないですか。展望ロビーの屋根は2000平方メートルあり、降った雨をこの非常に大きな屋根から地下の雨水タンクに集めます。いわば屋根から雨水タンクへのネットワークです。雨水タンクは、治水用の1800トンと水の有効利用の為の800トンと二つがあります。基本的なデザインは、前者はピークカット降水量50ミリ、後者は100ミリ対応です。下水道は50ミリのデザインですけれども、100ミリは昨今、珍しくなくなりつつあり、100ミリのピークカットをしてしまおうという考え方です。これにプラスして、雨水の地下浸透もシステムとして入っています。ただ、墨田区は下町で、浸透性が良くないところですから、新宿区や千代田区に比べると効率が悪いのですが、それもある意味、ピークカットとベースカットという両方の役割で、洪水に強い再開発の町づくりになっています。

 墨田区は2008年に条例もつくり雨水の有効活用をシステムにし、順調に雨水のビルディングが増えています。墨田区だけでは微々たるものですけれども、これはある意味では、ドレインシティからレインシティへの転換の、ひとつのモデルだと思っているのです。

私は発想の転換をするしかないと思っていましたから、ビルの屋根を見ると小さなダムに見えてしまうわけです。そこで目を付けたのが国技館の雨水利用です。33年前、私が提案して、アジアで最大規模の雨水利用施設が国技館にできました。当初は国技館に「たかが1個じゃないか」と言われました。たかが1個、確かに効果はあるかもしれないけれども、そんなものははっきり言って刺身のツマじゃないの、みたいな話をされました。人によっては、頭がおかしいのではないかとも言われました。幸いなことに墨田区長が非常に理解してくれまして、区長が最終的には春日野理事長を寄り切って、設計変更してできました。国技館の雨水利用システムは、私だけでは無理でしたね。それ以降ずっとこのシステムの普及を行い、今日、墨田区内には560のビルや住宅に雨水タンクがあります。

 当時、私は、実際に1軒、1軒のビルや住宅に雨水タンクを入れていくとどういう効果があるか、治水、利水、防災でシミュレーションしてみました。コンピュータがなかったので、自分で住宅地図をチョキチョキとハサミで切って、コンサルタントと一緒に計算しました。すると、効果があることがわかったのです。多分、初めての結論だったと思います。それ以降、墨田区が受けて、では政策にしようということで進めてきたのですけれども、昨年、大きなもうひとつの新しい時代と言いますか、雨の時代がやってきました。これからつくる国のビルは、基本的には雨水タンクを入れることを義務づけた雨水利用推進法という法律が国会の超党派で通りました。今年、基本方針が示され、日本全国をドレインシティからレインシティにすることを国土交通省が提唱しはじめたわけです。私も墨田区で頑張り、都内全体に広めてきました。今、東京都内の1000以上のビルで雨水利用がされているのですが、これが日本全国に広がってくるのです。

国からの指導、技術面や財政面でもの支援、あるいは建築学会で始めている規格作り、技術者の養成など、画期的なトータルな動きが国の中で出てきたわけです。

また、逆さ傘の絵のように防災政策の発想の行政が転換を考えはじめたことは、非常に良い事だと思っています。

≪AMAMIZUの普及≫

次は、バングラデシュの話です。この国には固定電話がなくいきなりモバイルが導入されています。つまり良いシステムであればすぐ飛びつくというのが発展途上国の新発展パターンだと思います。ここでは、雨水利用の面でも、下水道整備がされていないのもかかわらず、国の指導で、新しいビルディングには、「rainwater harvesting(雨水採取)」と雨水利用が表示され、グリーンビルディングとして雨水を有効利用した屋上緑化も行われています。これはドイツでは当たり前ですけれども、先進国だけではなく、最貧国といわれたバングラデシュでもこのような状況ですから、今後、ミャンマーなどいろいろな都市の中の再開発で、ドレインシティからレインシティへと、水について行政も、企業も、市民も考える町になる時代がきていると思っています。

私は、この動きをレインシティ・イズ・ブレインシティ(brain city)と言っています。

 今回の国連防災会議のポイントは、私が提唱してきた「ライフラインからライフポイントへ」です。神戸の震災(阪神淡路大震災)がライフラインだけに全面依存した都市がいかにもろいかという教訓になりました。東日本もそうでしたね。そういう点からいうと、ライフラインの強化もさることながら、今後の都市のセキュリティを上げていく上でキーポイントになる大切なことの一つは、小規模な分散型水源を無数に都市の中に配置していくことだと思います。東京スカイツリーも、そういう側面があります。

 一方で、国連の2000年から2015年の運動で、ライフラインがない農村地区で水道を造ろうと頑張ってきたのですが、成功していません。農村の分散した家々では非常に効率が悪いし、投資効果も悪いのですね。これから小規模分散型の水源が水道の代わりになるでしょう。かつては日本にも井戸や湧き水がありましたけれども、個人水道の考え方で発想を変えていく時代がきていると思います。

バングラデシュは、今でも池や川などからの水汲みが主です。この様な水源は汚染されていて、下痢などにより毎年、数十万人が死んでいます。今でも、今から約25年前、ユニセフの主導で井戸水にしなさいと、800万本の井戸を掘りました。ところが、バングラの多くの土地はヒマラヤ山脈ができたとき、ヒ素の鉱脈が上がったところが多く、掘っていけなかったのを、掘ってしまったのです。今、ネパールからガンジス川、一番下のバングラデシュまで、その汚染があります。

 さらに最近、非常に大きな問題になっているのは、「静かなる洪水」と言われている塩害です。私も、バングラデシュに15年、70回ほど行ったり来たりしているのですけれども、実感です。15年前はこのようなことはなかったが、特にこの5年ほどひどいのです。堤防を超えて塩分を含んだしょっぱい水が地中に入り込んできます。池の水もしょっぱいのです。雨季のときは薄まりますが、乾季はどんどん濃くなって、塩分計で測ると振り切ってしまうほどです。これは、エビの養殖といった食の問題とも絡み、我々の問題でもあります。エビはほとんどがインドネシア、ベトナム、最近はバングラデシュから来ます。塩水となった川の水や池の水を引っ張ってきて、そこに地下水を汲み上げて汽水を人工的に作るとブラックタイガーなどはどんどん大きくなり、非常に簡単に養殖でき、大きな産業になりつつあります。一方で塩水が入ってきますから、地下水がどんどん塩害化していくという深刻な問題が発生しています。

概ね11月過ぎに乾季になるバングラデシュでは、子供たちが水汲みに行くのが日常風景になります。きつい時には、たまには水を買うのですが、20リットルで約75円、今はタカ高なので、90円くらいはしますかね。毎日になると、結構馬鹿にならないです。貧しい人も買わざるを得ないから、大変な経済負担になっています。

日本の得意なハイテク処理、RO(Reverse Osmosis Membrane=逆浸透)膜を使えば、塩分も取れる、ヒ素も取れますが、このような技術を農村に導入することは、始終停電もあるし、サスティナブルではない。策はあるけれども導入も管理も難しい。結論は、空に無数に蛇口があるではないか。雨水の有効活用は、見方を変えれば「天の水」です。海の水や川の水が蒸発して、森の木々から出る水蒸気も含めて、それが水循環に乗って雲となり、重力で雨水として落ちてくるのです。

考えてみれば、元々、地球のやっている海水の淡水化を雨水と呼んでいるだけであって、非常に安全な水です。ヒ素も、塩分も、鉄分も、もちろん病原菌も、糞便汚染の問題もない。そういう点では非常にポテンシャルの高い、安全性の高い水だと言って良いと思います。たとえば東京の大手町ですと、金町浄水場から水が来ていますけれども、原水となっている江戸川の水に比べれば、全然ポテンシャルが違います。

昔からバングラデシュの人たちは、「モトカ」という大きくて20リットルの素焼きの甕(かめ)に雨水を貯めて飲んできた歴史があったのです。「この甕から、なぜ飲まないのだ」と聞いたら、「これは良い水だから、親戚や夫の親が来たときのためにとってある」と言うのです。乾季のときのために、自分は我慢して池の水を飲んでいるというのです。これに代わる、何とか全ての人に安全な水をいきわたらせるために安いタンクをつくれないかと考えてもう15年になりました。何事にも共通することですが、ポイントは5つあります。

「簡単であること」

「丈夫であること」

「長寿命であること」

「低コストであること」

「維持メンテナンスしやすい」

 エネルギーも必要ないエコフレンドリーな点からも、これが実現できれば一番良いわけです。

 では、そんなものがあるのか。世界中をずっと探して、タイの伝統的な雨水のタンクをジャイアント・ジャーというモルタル製の甕製造技術を移転しました。タイではだいたい650リットルなのですけれども、私は1000リットルにしてこのモルタル製の甕を「AMAMIZU」と命名しました。バングラデシュの左官屋さんをタイの国立職業訓練校に派遣し、その技術を学んでもらい、スタートしたわけです。

 作り方は、まず鋳型をつくります。その鋳型を基に、16パーツの型をつくってセットアップして、泥を塗って、左右をモルタル処理して、そして固めていくわけです。中の型を抜いて、これは何度も使えます。非常にシンプルですけれども、こういうものを開発して、JACと協働でBOP(Base of the Economic Pyramid)ビジネスとしてスタートしたわけです。

cpv_3_water雨をどのように集めるか。私は温故知新で、神社仏閣にある“鎖樋”をヒントにシステムを導入しました。

ここではマラリヤの問題、デング熱の問題があるので、モスキートブロックできちんとカバーをかけます。降り始めの最初は“鎖樋”を外しておいて、10分後位にこの“鎖樋”を甕入り口に入れます。雨水が一杯になると沈殿タンクも兼ねた隣の甕に水が入り、この中に入るとと一番きれいな水が取れるわけです。

ちなみに、甕の色がなぜ白と赤とグリーンかというと、白と赤が日の丸で、赤とグリーンはバングラデシュの国旗です。色が違うだけで、日の丸そっくりです。真ん中が赤、バックがグリーン、これがバングラデシュの国旗です。

cpv-3-water製造のため、雨水プロジェクトセンターと言う2か所の工場を造りました。運び方は、基本的には地産地消で、現地のレイバーワークを上手く活用して、田舎ではポピュラーなリキシャを改造し、遠いところはエンジンボートで運びます。1回で9個、250キロありますけれども運べます。実際にやってみて、面白い結果が出ました。7~10月は雨期で、他は乾季です。乾季は売れない。ところが雨季になるとワッと売れます。ですから、雨季のときにマーケティングとセールスと設置を基本にして、乾季は生産を基本にすると、ここからプランを決めました。

water-cpv3 雨水タンク「AMAMIZU」は、いくらなら買えるのか。カンフォータブルな値段は大事なポイントになるので、JICAのプロジェクトでベースライン調査をしました。1つは3000タカ(現在換算で1,800円程度)。約5割の貧しい人は買っても良いと言いました。今まで寄付してくれ、恵んでくれと言ってきていた人たちが、買っても良いというのです。実は雨水タンクに加えて雨どいや、運搬費、設置費が1300タカかかりますから、4300タカならどれだけ買えるかというと、30%の人が買えると答えました。これはいけるのではないかと、ここからまずやってみようとチャレンジしました。3000タカのタンクをつくろうとセメントの材料費なども精査して、何とかコスト内に収まるようにやっていったわけです。

 もうひとつ非常に興味ある調査データが出てきました。貧しい人は水にいくらコストをかけているのか。3000タカが高いと言った人も、実は平均700メートルほど、往復1.4キロメートル、水汲みに歩くわけです。遠い人は4キロほど歩きます。きついときは水汲み屋に頼んでお金を払って運んでもらいます。これに1年間、だいたい1250タカ払っているのです。高い人はこの3~4倍という大変なお金を払っています。

 もうひとつ、池の水や地下水を飲んで下痢を起こして医療機関に行くわけですけれども、1年間に5回くらい行きます。これに1750タカかかるので、両方足すと3000タカです。雨水タンクを買えば、1個では足りません、2個買えば、ドリンキングウォーターを量的にカバーできます。すると水のコストも削減できるし、安全な水がないという社会問題もダブルで解決できるわけです。

 このデータを見、さっそくソーシャルビジネスとしてスタートしました。ビジネスにしたのは、やはり、貰った物は管理されない、オーナー思考がなかなか働きにくい。お金を出してでも買うという形にならないと、メンテナンスもなかなかやってくれません。そういうこともあって、分割払いを導入しました。最初は、一人でも多くの人が買えるように頭金を2000タカ。利子なしです。これで売れなかったら、このビジネスは成り立たないと思いました。200件やってきちんと97%お金が帰ってき、これはいけると思ったわけです。

ある日、スタッフ一人が「来てくれ」と言われたので、「タダではあげられない」と言うと、彼は「そうじゃない」というのです。「うちに入ってくれ」と、家に入ると、彼がニコリと笑って素焼きの貯金箱を見せ、目の前で割ると、日本でいうと1円玉とか100円玉とか、そうした小銭がたくさん出てきて、頭金2000タカをきちんと払いました。彼はまけてくれとか、分割払いも、何とか伸ばしてくれとも、一度も言わない。きちんと返してきました。そのことはとても大切なことだと思います。

これは、ヒト、モノ、お金がきちんと地域で回っていくソーシャルプロジェクトです。私はこれを最終的には地域の産業にしたいと思っています。雨水産業です。

IMG_8229-1安全な水がないのは、単に個人の住宅だけの問題ではなく、病院、学校、公共施設、あるいはコミュニティー施設等にとっては重要なことです。私が理解できなかったのは病院にライフラインの水道がなかったことです。そこでJICAのバングラデシュ事務所に提案し、バングラデシュ初の、病院のオンサイト型の水道施設を造りました。量的にも、質的にも、200人の患者と、病院のスタッフの皆さんから、非常に満足な結果が得られております。飲み水は基本的には雨水です。他の水は近くの病院の中の池の水を使っております。

2011年3月22日の、私の誕生日でもある、国連水の日にとうとう1000基を突破しました。多分、今年中に2000基いくと思います。これが万のオーダーになってくると、多分、政府も動いてくると思い、もうひと頑張りです。

“逆さ傘”の発想は、これから世界を、都市も、農村も変えていくと確信しています。

 

講師:中宮敏博氏(㈱LIXILグローバル環境インフラ研究グループ)

テーマ:途上国の衛生状態改善のための無水無電源トイレの普及

IMG_8302-1新興国での水の汚染の元凶の一つになっているのがトイレです。われわれはそこにメスを入れたいと、アジア・アフリカ地域で無水無電源のトイレを導入することで、地球的な問題の解決につながらないかと活動を始めています。

 まず水のことです。われわれが利用できる(地球上の)水はたかだか、0.01%。容積180リッターの浴槽に例えると、大さじ一杯、15ミリリッターほどが0.01%。これくらいの程度の水しか利用できません。

 日本の年間(平均)降水量は約1700ミリあるのですが、人口一人当たりに換算すると、それほど水に恵まれた国ではないのです。日本の降水総量は、約6400億立米で、そのうちの36%は蒸発します。そして、実際にわれわれが活用できる水の量はわずか831億立米。年間降水量の13%に過ぎません。これは日本の地形が丘陵で、河川の流路が短いために雨があっという間に海に流れてしまう、あるいは梅雨や台風のように集中的に降るなど、そのために、わずか13%しか活用できません。

もうひとつの視点は、日本は農作物を通じて水を輸入している国です。日本はカロリーベースで40%しか農作物の自給率がありません。その他は海外から作物を輸入しています。それに使われる水を仮想水と呼んでいます。それを考えると、日本で農作物に使用しているよりもはるかに多い水を輸入しているわけで、われわれは日本だけではなく、海外の水事情も考慮しなければいけないと考えております。

先ほどから言われているように、水は天から降ってくる。天からのもらい物ではない。湯水のごとく使ってはならない。貴重な資源であることを、われわれも肝に銘じて事業活動を行っています。

≪リクシルの節水の歩みと進化≫

人間が1日に使う水の量はだいたい200~250ミリリットルと言われおり、トイレ、お風呂、炊事、洗濯その他、これがほぼ4分の1ずつに当たります。意外とトイレに水を使っていることがわかります。生活の中でトイレは、水の消費設備であり、大切な水資源を守るため、トイレメーカーとして節水を切り口とした商品開発をしなければいけないと、開発を進めて参りました。

まず、トイレの節水の歩みとして大便器です。1973年、ワンフラッシュで16リットル使ったのが、最新では様々な技術を駆使して4リットルと、4分の1まで水の消費量が削減されております。

「エコ4」と呼ぶタンクレスタイプのトイレでは、ブースターと言われる蓄圧装置をトイレの中に組み込み、少しの水でも勢い良く流れるようにします。あるいはサイホン式のタンクレスタイプでは便器形状を最新設計にして、なるべく洗浄水が少なくても洗い落とし、奥に流すことができるような構造にしています。タンクのあるバージョンのエアドライブユニットでは、水の流れ落ちる力を使って強制的にサイホンを引き起こします。こういった水を使い、なるべく電気エネルギーを使わずに強力な洗い流す力を持たせることによって節水を実現しております。

一方、小便器のほうも節水が進んでおります。広い面を洗うため、昔は4リットルだったものが1リットルまでに削減されております。ここでは突水部の構造をいじって小水量化を図っています。それのモチーフになったのが、ホタテの形です。ホタテのデザインを流用しながら、突出の構造を、試作を重ねながら現実のものにしております。

さらなる進化として、現在、無水の小便器の販売をしています。これはトラップと言われる尿が流れ込むところに工夫を凝らしています。排出底部に薬液を入れたシール材を使ったカートリッジが設置されています。これは水より軽いものですから浮いた状態になります。尿が流れてきますと、尿がシール材の下に入ることによって尿からの臭気上がりを防止する構造で、無水でも臭わないトイレの形が実現できています。

その他、節水を追及した商品はいくつもあります。洗浄のときに使う水を減らすために汚れがつきにくいトイレ、手をかざしたときだけ水が出るトイレ。そうしたことによって必要なときだけ必要な量が出る仕組みをもった水洗金具、渦を使って簡単に髪の毛等の汚れが除去できるお風呂の排水溝、究極は、泡風呂です。泡風呂にすることによって、水の消費量を極めて少なくする商品です。

次は新興国でのトイレ事情です。世界の水と衛生の状況は、9~10億人の人が安全な水にアクセスできない、トイレについては25億人が衛生的なトイレにアクセスできないと言われています。新興国の衛生科学、法定伝染病、そういった類のものによる影響から健康障害で亡くなる方は年間220万人ほどいるだろうと推定調査されております。

≪新興国のトイレ事情とし尿処理≫

実はインドネシアの首都は非常に都市化が進んでいるにもかかわらず、下水の処理が不十分な状態です。田舎に行くとほとんど、トイレから出てきた汚物はタンクに貯めたり、直接河川に流したりするのですが、バキュームから吸ったものも、結局、処理するところがないので河川にほとんど流れ出ているような感じです。その河川の下では子どもが水遊びをし、生活に必要な洗濯、あるいは水汲み、この水は直接飲料水にするかどうかわかりません。ボイルして飲むのでしょうが、田舎ではこういったことが当たり前に日常の中でされております。この現実に心を痛めておりまして、どうにかできないかということでトイレに関する取り組みを進めております。

新興国はどんなトイレを使っているかですが、新興国は都市部においては日本とほとんど変わりません。インドネシアでは洋式もありますが、和式もあります。大きな違いは、トイレットペーパーがないことです。ムスリムの世界ではお尻を洗う習慣がありますから、水溜めがあり、この水をすくってお尻を洗い、汚物を洗い流すのに使います。だいたいこれに使われる水の量が、われわれの調査では1回あたり約10リットルです。非常に大量な水をお尻と汚物流しのために使われています。

インドネシアの農村部では、お尻を洗うことには変わりはありませんが、汚いですね。コケが生えて、非常に床もヌルヌルしておりまして、なかなか入るのに躊躇してしまうトイレです。ケニアに至っては、本当に単純な、ピットラトリンと呼ばれる穴を掘って、そこに汚物を貯めていく。いつかはなくなるでしょう、という形です。究極なトイレで言いますと、幹線沿いのカフェのトイレですけれども、店員で案内されたトイレには、レンガしか置いてありませんでした。どうやってするのかと思ったら、「その辺にする」のだと言う。実際に壁は布ですけれども、これをチラッとめくってみると外には田んぼが広がっていて、全ての汚物はこの田んぼに流れていくそうです。また、母屋から約50メートル離れているところに、突然、屋根があって、よく見ると穴が開いている。これが新興国の田舎のトイレです。牛と一緒に使っていたトイレで、こういった非常にちょっと、日本では出るものも出なくなってしまうようなトイレが非常に多くあります。

次は、し尿処理です。当然、都心のインフラ整備されている下水道エリアについては、日本と同じように下水処理プラントで処理されます。田舎では、そのプラントがないので、いわゆる分散処理、個別処理というものが採用されております。

代表的なものとして、世界的にも使われているのがセプティックタンク(腐敗槽)方式です。トイレの下に三層に分かれた大きな槽があり、自然の、酸素のない状態で処理をしていくことが、世界的な標準になっています。基本的には、きちんと整備されていれば汚水のBOD濃度の7割ほどが、処理できると言われていますが、ほとんどメンテナンスがされていないものですから、その能力がかなり落ちております。生便、トイレットペーパー等々が入ってどんどん固形部が多くなってしまい、処理が悪くなってしまう。そのうちに洪水が起こると、この部分の全部が流れ出てしまい、結局は掃除されてくるわけですが、非常に汚い状態のものが外に出ていってしまっている状態です。

もうひとつ新興国でよくあるのが、地下浸透タイプです。糞便をここに流し込んで、あとは自然に任せて処理をするトイレです。こういった処理ですと、地下水源が近くにあれば地下水汚染につながりますし、直接川に流せば、河川汚染につながります。また、ベトナム式と言われる2つの層に分かれているダブルピット・ラトリンがあります。尿は分けるのですけれども、便は半年ごとに層を使い分けていて、片方を使っているとき、片方は熟成させて、最終的にはたい肥として利用する効率的なトイレです。

途上国の衛生改善への取り組みとして、ひとつは当然のごとく、水洗事業です。われわれの事業の中心のものを、新興国、先進国を含めて販売を進めております。その他、CSR活動としてユニセフのWASH(衛生)プログラムに参加したり、われわれの独自プログラムとして、サニテーション・インスクールを行なったりしております。新事業としては、「グリーントイレ」と呼ばれる新しいトイレの開発も進めております。また、新興国向けの簡易式パン型トイレ「SaToトイレ」を製造しています。「SaTo」は「Safe TOilet」の略で、排水口に取り付けられた弁により、ハエや臭気の発生を防ぎ、病気の発生を抑制できます。水洗トイレが一台売れたら新興国に簡易式パン型トイレを一台プレゼントする、そういうプログラムを運用して、簡易式トイレを普及しています。

≪グリーントイレ≫

IMG_8329-1われわれが開発、提唱しているのは、資源循環型無水トイレ、グリーントイレと呼んでいます。トイレに尿と便を分ける分離装置をつけ、それぞれに適切な処理をくわえ、肥料、あるいは農地の土壌改良として使うような、農地還元の仕組みができるようにと改良しています。このトイレの特徴は、電気や水を使わず、衛生的に汚物を処理します。し尿を適切に分ければ臭いも抑えられし、有機物の塊の排泄物を肥料とすれば、環境負荷を最大限下げることができるのではないかと考えています。

尿には窒素、リン、カリウムが含まれています。これを成分ごとにまとめますと、大人1人、年間1500円ほどのNPKの価値があります。逆に言えば1500円分の肥料を買わなくてよいことになります。これを上手く利用すれば、新興国はその分だけ収入が増えることになります。

インドネシアでJICAとグリーントイレの導入プログラムを進めております。彼らは元々、オリジナルの水洗トイレを使っていたので、無水のトイレに抵抗感等々がありました。実際に評価もらうと問題なくスルーできました。

彼らが気にしているのは、やはり室内の臭気、汚物が見える、見えない、そうしたところが評価になるのですが、われわれの評価では、アンモニア濃度が今のところ1ppm以下でした。アンモニアは2ppmを超えると、「あっ、臭いな」という感じを受ける数値です。だいたい仮設トイレで測ってみますと、4~5ppm出ていますから、息を止めて入ると、途中で息苦しくなるのが一般的です。日本でも震災などで使われている、あるいは花火大会や縁日などで使われている簡易トイレは、実際にそういったアンモニア濃度になっています。

それに比べるとわれわれのトイレは、無水にもかかわらず1ppm以下ですから、ユーザーサイドから見ると臭いはしないね、と安心して使っていただいております。

このトイレを置き換えて、実際にどの程度節水できたかというと、約75%を削減できております。車のようなレバーを持つことによって彼らの使い勝手の良さをアピールするような構造になっています。

どのように個液を分けるかといえば、フラッパと言われる黒い蓋があって、排尿のときはレバーを上げてクローズの状態でします。すると、このフラッパの一部に配管がついていて、尿はそこから外に流れ出る形です。便をする場合、このレバーを下げるとフラッパが開くと下に大きな便を溜める槽がありますから、そういった形で個液を分けます。

少々マニアックなデータになってきますが、ベトナムでは、現地の大学と協力して、便の無害化の過程を調べています。便の簡易な発酵促進装置をつくり、この中に便の塊と、食品残さを少し入れ、あとは微生物製剤を多少入れ、クルクル回すことによって発酵促進させます。そうすることによって便中の微生物がどう変化していくか、そうしたことを確認しています。セッティングしてから約1週間のあいだに、少し低いのですけれども45℃まで、温度上昇の確認をしております。微生物の変化については、最初は10⁶個あったものが、約2カ月後には10²以下のWHOの基準を満たした数値になっています。

もうひとつ、便を堆肥にするときの注意点ですが、寄生虫卵です。日本人はほとんど持っていないのですが、海外の新興国では7割ほどがまだ蟯虫、回虫を持っています。これが田畑に撒かれたとき、野菜などにつくと次から次へ感染してしまいますから、WHOの基準でも、蟯虫卵、回虫卵はヘルミンスエッグ(蠕虫卵)と言われますが、この推移は非常に重要な指標になっています。これも約2カ月経つとほぼゼロになり、先ほどの設備を使うと、約3カ月あればし尿は安全になって行くとデータは示しています。

グリーントイレの普及で変わることは、今までは化学肥料を使いながら育て、食べて、排せつして、それをまた捨ててしまう流れだったのですが、サスティナブルなデザインに変わるのではないかと考えております。われわれの最終的な目標は、都市部と農村部を上手くネットワーキングしてつなげてあげること。都市部と農村部の収入格差、教育格差も含めて、こうしたシステムを使うことによって平均化できるのではないか。さらにこうった仕組みが上手くできれば、当然、先進国へのリバース・イノベーションもできるのではないか。こうした仕組みが上手く回るようになれば、多少のアレンジは必要ですが、先進国にもバックできるとイメージしながら、いつも開発を進めています。

インフラにかかる費用は、大都市であれば集中型がコスト的にも優位になります。田舎になればなるほど分散型が得意になってきます。その均衡点を境に、インフラ整備されているところであれば、われわれの今までの事業形態である水洗トイレ事業は幅を利かせることができるのではないか。だいたい、先進国のエリアが10~15億人です。それとは別にBOP(低所得)層は40億人いるのですが、その間にMOP(中所得)層がいます。ここにいきなり入るのは、難しい。

われわれは「お買い物リスト」と呼んでいるのですが、まだまだトイレは飲料水に比べて、お買い物リストが高い位置にありません。食べ物や洋服、教育はお金を使いやすいのですけれども、トイレにお金を使う人たちは少ないものですから、ここでは事業が上手くできないのではないかと、まずはMOP層、この10~15億人を対象にしたエリアで事業展開をしていきたいと考えております。

このように、収入別人口分布、購買力を考慮して事業形態を考えていく、今の事業を目指しながら開発を進めている状況です。以上で説明を終わります。

 

講師:山田 健氏(サントリーホールディングス㈱エコ戦略部チーフスペシャリスト)

テーマ:天然水の森

≪水の会社 サントリー≫

IMG_8401-2 サントリーとは、実は水の会社です。良い水がないとビールも、ウィスキーも、清涼飲料も、何もつくれませんから、特に良質な天然水はサントリーという会社の生命線だと思っています。その生命線の持続可能性を守るための活動が、「天然水の森」です。ですから「天然水の森」は、全国の工場の水源可能エリアでやっています。 2003年にスタートして、現在、だいたい山手線の内側約6300ヘクタールを超える約8000ヘクタールの規模になります。この面積は既に、「工場で汲み上げている地下水以上を森に育む」という理念を十分に満たしているのですけれども、2020年までに1万2000ヘクタールを目標に活動しています。この活動の重要なことは、ボランティアではなく、あくまでも事業活動として行っていますから、当然のことながら数値目標もいるし、品質目標も必要になります。

数値目標は先ほどの通りですが、品質目標の、「水源涵養林としての高い機能を持った森林」は当たり前のことですけれども、これと「生物多様性に富んだ森林」はほぼイコールになると思いはじめています。今日は、その部分をメインにお話させていただこうと思っています。それから「洪水土砂災害に強い森林」、良い森をつくっても崩れてしまっては何もなりません。一方、「CO2の吸収力の高い森林」は、成長の良い森林ですが、成長するときに水を使うものですから、決してこれが品質目標に繋がることはないのですが、日本の場合にはとても荒れた人工林がとんでもなく広がっているので、これをきちんとしてあげることによって、品質に結びつくかなかなと思っています。

また、「豊かな自然と触れ合える美しい森林」として、森と水の学校、小学生たちを森に連れて行って、学習する教室として使っている森もあります。

≪土壌と地下水≫

そもそも地下水はどのように涵養されているのか、ということです。森は緑のダムと言われますが、実は上から降ってきた雨のほぼ3分の1は、森の葉っぱに捕捉されて蒸発してしまいます。せっかく地面に届いても、根っこからまた吸い上げて蒸発してしまう部分がかなりあります。ですから森があることによって、地下水も、川の水も、総量は減ります。それなのに、なぜ森があると良いのかというと、土壌が重要な役割を果たします。

山に全く森がない、無機質の土はギシッと詰まっています。ここに水はなかなか染みません。一方、上に草や木などいろいろとありますと、根が耕したり、微生物が耕したりして、土が団粒化といって、小さな団子状のものになります。その周りはスポンジのような空間が大きくなり、これが森林土壌のとても重要な部分になります。

団粒の中はいろいろな微生物群がいてこの微生物群が土壌を浄化してくれるのです。同時に団粒の中は、水がいったん浸みても、なかなか抜けない。逆に団粒の外側はスポンジみたいなものですから、スッと抜けます。つまり水はけも、水持ちも良い土ができはじめます。これは植物にとって理想的ですし、あるいは水にとっても理想的な土になっていきます。

水の入り口となるこの土壌が表面にあることが、とても重要です。もしこれがなければ、降った雨は表面をさっと流れ、洪水のようにもなります。そのように荒れた山が上にあると、川はすぐに濁ります。大雨が降ると一気に増水して濁ります。その後、土壌の中でいったん蓄えられた雨水は、ゆっくり、ゆっくり、染みてきます。すると浸みにくい岩盤に達した時に最初の地下水帯ができあがります。ここが渓流の水位と一致することになります。

われわれの工場で使っている地下水は、さらにさらに20年かけて深い地下水帯にたどり着いた地下水を使わせてもらっています。

ですから、よく「地層によってろ過された美味しい地下水」と言われますけれども、むしろ「ろ過してきれいにするのは土壌」なのです。このろ過の先の動きは、ミネラルが適度に溶け出して美味しい水になっていく過程になります。ということで、キーワードは土壌です。

地下水の循環にとって土壌の果たす役割については、この森の仕事をはじめる頃の森林水文学では、そんなものは全く影響がないという話になっていました。しかし、この10数年間、いろいろな先生方と研究し、そしてシミュレーション技術が非常に進化した結果、1メートルあるのか、あるいは50センチあるのか、この差が、地下の水の流れにとても影響することがはっきりしてきています。

≪土壌と生態系≫

土壌を育むためには非常に豊かな生態系ピラミッドが大切です。

食物連鎖での生態系ピラミッドは、一番下に土壌があり、生産者として植物がいます。その植物を食べる生き物たちがその上にいて、雑食動物がその上にいて、最終的には肉食動物がいます。当然、食うやつは、食われる側よりも数が少ないですし、食われる側が大量にいないと食う側は滅びていくわけです。このピラミッドはそういう構造をしています。

一番の基盤をなしているのは土壌ですね。ここがもしなくなってしまうと、植物も生きていくことができなくなります。当然ながら、上も全てダメになります。ですから基盤の土壌が消えてしまうと、ピラミッド全体が崩壊します。逆に、この上がないと土壌もできないのです。両方の交互の関係がとても重要になります。

この土壌を守るという視点ですけれども、最近、深層崩壊がよくあります。これは、植物でなかなか守ることはできません。ただし、どういうところがこういう崩れ方をするか、今はだいたい5センチの精度で木の上の形も、地面の凸凹も正確に撮れるレーザー航測によって測ることができます。それを見て、解析してあげると、崩れる箇所がはっきりわかります。そういうところは、実は水が地下から集まっているところなので、水を抜いてあげれば崩れるのを防ぐことは可能です。それからよくある表層崩壊は、かなりの部分、植物で防げます。昔々、周りはカラマツで、上が広葉樹だったところを、広葉樹を切ってカラマツを植えてみたけれども、成立しなかったところがズルリと落ちて、丸裸になったところがあります。それを、われわれが緑化を進めているところです。

この崩壊を防ぐために、先ほど多様性が重要だと言いましたが、植物の根の形がとても重要です。植物の根は、種類によって全く違う形をしています。たとえばモミやミズナラみたいなものは直根(ちょっこん)といって、真っすぐ、深くまで根を張ります。こういう木が斜面にあると、杭の役割を果たし、斜面に対してずり落ちにくくなります。それから表面にさっと値を張る竹などはネットのように抑えてくれる役割をします。あるいはハウチハカエデというカエデの仲間などは、前に岩があると、この岩を包み込むような形の根の伸ばし方をします。ですから、岩を斜面に張り付けるような仕事をします。それから綱みたいに、細かい根がたくさん生えて、土をキュッと抑えてくれるようなものもあります。

このように、いろいろな木が生えている斜面は崩れにくいのですね。一方、竹や杉、ヒノキのような根の浅い木だけが斜面にあると、これはズルッと落ちる可能性が高くなります。この土を守る、育てるために、同時に根は空間をつくって、深いところまで耕してくれる仕事をしてくれますので、そういう意味からも、様々な根っこたちが必要です。

豪雨や地震に際に起こる大規模崩壊の前段階として発生する表層土壌の流出の要因については次の三つがあります。

一つは、杉やヒノキの手入れ不足の林で、真っ暗なので草一本生えません。杉はまだマシで、ヒノキは落ち葉として落ちると1ミリくらいの鱗片状にバラバラになってしまいます。すると雨は当然のことながら、全部流してしまいますからどんどん土は流され、根が浮き上がって、こんな森がもし大きくなって、上が重くて根が浅いところが急斜面にあったら、当然ながらズルリと落ちますね。非常に危険です。

二番目は、鹿です。鹿は胃が4つある動物で、最初の3つは微生物による発酵層です。ここで毒を無毒化して、いわば草の発酵食品を食べている生き物なので、増え始めると無限に何でも食べつくします。恐らく、日本全国でだいたい500万頭は最低いるだろうと言われています。

三番目は、照葉樹林化。放っておくと楠や樫など常緑樹の森になるのですね。元々の森に戻るのだから良いではないかと思われるでしょうが、実は真っ暗になることでは先ほどの杉、ヒノキの手入れ不足の森と全く同じです。九州などでは、真っ暗になっても下に生える植物がありますが、残念ながら本州、四国あたりでは、2000年にわたって薪や炭を取るために明るい森として管理してきたのですね。つまり暗いところに生える植物は、人間が全部絶やしたのです。ですから親分だけが上に生えても、子分がいないものですから、真っ暗になって土壌ロスが起こるのです。

表層崩壊を防ぐためにも、豊かな土壌を育まなければなりません。森林土壌は落ち葉や落ち枝、草、あるいは動物の糞など、やはり豊かな生態系が必要です。不思議なことに、針葉樹の人工林みたいな単一のものの土壌は、何度も収穫しているうちにどんどん劣化して、針葉樹そのものも育たなくなっていきます。ところが多様な植生に覆われた土壌は、時を重ねれば重ねるほど豊かになっていくのです。

栄養素の窒素、リン酸、カリウムはどこからくるかというと、たとえば窒素は、根と共生している根粒菌、法線菌、あるいは土壌中の窒素固定菌など、これが溜めています。カリウムはカリ長石という花崗岩の中によくある、一番溜まっているのですが、これは結構土壌中のバクテリアや菌根菌などが溶かします。それからリン酸は、自然界では動物の骨に最も凝縮されます。生物多様性の高い森ほど、リン酸の供給量が高くなります。

こういういろいろなものがあると、いろいろな深さから養分を吸い上げて、上に落ち葉として落としてくれるのですね。でも根が浅い、正面にしか根のない植物たちがいると、栄養分は下に落ちたままで吸い上げることができないので、森があっても土が痩せるという変なことが起こります。ですからやはり、いろいろな木の根があることがとても重要であることがわかります。ということで、こういう多様性があることによって、非常に豊かな土壌のできるような循環が自然に整備されているのです。

≪生物多様性と土壌≫

生物多様性を考えるとき、ほとんど全ての木は、親木の下では成長できません。これは何かというと、種から芽生えて葉が開くとき、上にいる親木の葉も同時に開くので、親から光を奪われてしまうのです。同時に、親木の葉っぱを食う虫などは、しばしば上から落ちてく同じ種の子どもを選択的に食います。同時に病気も降ってきます。

ということで、植物はできるだけ遠くに種を旅立たせるのですね。その方法として主に4つあります。重力散布、風散布、動物散布、鳥や動物に食べてもらって糞でまき散らしてしまう方法です。それから水散布。例えばどんぐりですが、カケスは、どんぐりを口一杯ほお張って、埋めていき、後で掘って食べます。ドングリは2~5年に一度しか豊作年がないので、必死に埋めます。当然、その中には掘り起こされずに忘れ去られるものもあるわけです。ほとんど全ての植物ができるだけ遠くに種を旅立ちさせることをやったために、生態系は非常に様々な木々が入り混じる多様な方向へ進化していったのです。多様なモザイク状の複雑系は、病害虫や天敵から身を守るために適しているわけです。もしひとつだけ木が生えていたら、人間のつくったものも皆そうですけれども、必ず病害虫が大発生します。

もうひとつ多様性は、植物と動物の共振化によって支えられていることも重要です。小鳥たちが糞で種を撒き散らすのは子孫のために種を増やしている作戦にも見えますし、反対に植物たちは動物を利用して子孫を増やす戦略を取っている。ですから、利己的な進化はなかなか自然界では起こりません。むしろ、皆にとって都合が良いという形に生態系はできていく傾向があります。生態系から外れてしまって、こういうバランスから抜け出して、たった1つの種類だけで何とかしていこうと無理なことをやっているのは人間だけかもしれません。

このように、多様な生き物たちは豊かな土壌を育んで、豊かな土壌はより多様な生き物を育むという生のフィードバックが成立します。これがとても重要です。そして豊かな土壌は豊かな水を育む。団粒化が進み、多様な植物の根が張り巡らされた土壌は雨の浸透が極めて高くなります。同時に、微生物的な浄化機能も高くなります。ということで雨水に入り込んでいる様々な汚れ、病原菌もここできれいに浄化されて、水質も、水量も、共に良くなることが本当に豊かな森の恵みかなと思っています。

≪水の森の整備活動≫

9.4サントリー天然水の森は、「水と生命(いのち)の未来を育む」ために様々な整備活動を展開しています。まずは、40名を超える専門家による調査研究により8000ヘクタールの森のほぼ全てが大学なり何なりの、それなりの研究林として利用されているとお考えいただいて良いと思います。研究の連携としては「土壌系」と「植生」、全体を貫くことで水循環のシミュレーションモデル、ここに全てを組み込んでいます。地下水の滞留時間とか、先ほどのレーザー航測であるとか、森の整備の合意形成、木材の利活用、道づくりなどもやっています。また、生態系を見るのに一番わかりやすいのは鳴き声でわかる鳥類です。定点で観測できる鳥を指標として見ています。

整備活動は、先ず航空写真とレーザー、それから地上でも、丁寧に10~20メートルの坑道なども掘って、詳細な植生図を作ります。次に、植生図に基づいて地元の人たちとの合意形成のための整備計画(ビジョン)を立案します。ここに、地元の皆さんの意見を盛り込んでいきます。

IMG_8388-1われわれ天然水の森は、土地は買わないで、国有林や県有林、民有林もあるのですけれども、そういう方たちと最低30年間の整備契約を結ばせていただくだけです。要するにわれわれがほしいのは水であって、上の木ではありません。その代り、上の木を販売する努力は全部われわれがします。山土場(伐採した木をいったん集積し、素材にする場)まで運びだすというところまでうちの整備にして、その先、売った利益は森の持ち主に還元しますという協定になっています。

特にわれわれ天然水の森をやっているところは、たいてい荒れ果てた山を良くすることによって水を良くしようと考えていますから、基本的に、そんなところの山の木を自分で運び出して売っても儲かりません。ただ山に木を切り捨てると、かえって再生に難しいので引っ張り出します。引っ張り出したところの先のお金は地主さんの物になりますから、地主さんとはウィンウィンの関係になっているのかなと思います。

整備計画の資料としては次のようなものを用意します。

・地図、現状の特性として地形図、それから過去と最新の航空写真と過去の空中写真です。過去の航空写真を見ることによって、その頃の利用の仕方をしていたか、それがどう変化してきたか。過去を見ることはとても重要です。それから表層の地質、これは地下への水の浸み込み方など、植生に影響しますから正確に見ていきます。

・標高、傾斜、われわれの森はだいたい傾斜がきついです。30度以上が68%、場所によっては45度以上が80%なんて山もあります。

・各種法令や市町村の整備計画。道がないと森の整備できません。

・現存植生。元々の植生。何もしなかったら、こんな風だったろうねと予測します。放置したらどうなるか、放置100年後の植生を予測するのはとても重要で、放置して何も問題がないなら整備しないほうが良いのです。ところが残念ながら日本の森の場合、問題があるところのほうが多くて、この考え方を導入したとき、楽になるのではないかと思って導入したのですが、少しも楽にならないですね。それぞれのヒノキ群落はこうなっているよ、それはどんな状況にあるよと見ていきます。同じようなことを全部の群落でやります。このアベマキはこんなに広いよとか、この森の特徴はこんな特徴ですよと、まず地元の人にご説明します。目指すべき森の姿はこうだ、とつくります。そして全体としてはこうだよ、人工林はこんなところにもっていきたい、二次林はこういう風にもっていきます、とまとめます。

課題と解決策としては、目標に向けてここはシカが多い、人工林が放置されています、二次林も結構しんどいことがありますよ、といったことを並べていきます。それぞれの、たとえばシカに対してだったらどんなことをしたら良いのか解決策を見ていきます。問題に対して解決策を最低2~3個用意します。良かれと思ってやる解決策も、少し時代が変わり、あるいは気候変動が起こると、もしかするとダメになるかもしれない。ですから全体を複雑にする、多様にしていくと同時に、整備方針も多様であることが重要だと思っています。

だいたい30年から100年後の目標の整備方針として、こんなことをやるよと一覧表にして、地元の人たちに公開しています。当初は全ての森をホームページで公開するつもりでしたけれども、天然水の森だといって悪意のある人が毒を流しに行ったらどうするのかと心配する人もいて、今は、特にご要望のある方には公開します、という方法に切り替えています。

全国で行っている代表的な整備の実例をお話し致します。

まず「整備が遅れた人工林を健全な生産林に誘導する」。意外に、整備したら良い森になるじゃないかと思ったところが結構あります。どうしようもないところかなと思ったところが案外良かったりします。ただ間伐などは、必ずプロにしてもらいます。中には本当にどうしようもないところは植樹化を目指すこともします。ただし基本的には鳥や動物や風が持ってきてくれますから、あまり植えません。

それから植樹をするときには、地元のDNAまでこだわります。これはとても大変でして、地元で種を取って、苗木まで育てて、植える前の年には一切肥料を入れないようにして植える作業をしなければいけません。

緑化についてはいろいろな手を使って進めています。小学生にドングリを拾ってもらって、竹のポットでドングリを育てさせて、斜面に持って行って、竹ポットごと土の中に植えさせる。それだったら斜面でも流れないのですね。このように地元の小学校の環境教育の一環として山に入ってもらうこともしています。

整備にあたっての課題の一つは竹です。これは江戸時代に入ってきた外来種で、毎年3メートルくらい根を這わしてタケノコを生やすのですけれども、すると一瞬にして20メートルを超える高さになってしまいます。そうすると内側に入ってしまった木は光を奪われて枯れてしまいますから、本当に大変な問題になっています。

もう一つはシカです。シカの食害は、農産物への被害として報じられることが多いのですけれども、完全に生態系全体への脅威です。本当に何でも食い尽くして、山も崩れます。シカに崩された山はたくさんあって、東京都も水源林の森として杉の林、ヒノキの林を間伐して、枝打ちして光を入れることをしているのですが、普通だったら間伐して光を入れると草が出てきて土が安定しますよということになるのに、シカがいると全部食べてしまうために、逆に地面に届く雨の量は増えるのですね。ですからシカがいるところで、今まで通りの間伐をすると、逆に山は崩れます。大事なところはシカ柵で囲む、エサはやらないことをやっていますけれども、基本的には頭数を制限して食べていくことが一番いいのかなと思っています。けれども、実はオオカミの次の絶滅危惧種は若い猟師なのですね。猟師さんに若い人が入ってきてくれないかと、いろいろと画策しています。

もう一度ピラミッドに戻ると、実はピラミッドはリスクの大きさを測る際にも役立つのです。シカは土を崩してしまいます。ですからピラミッド全体の脅威になります。ナラ枯れだとか、松枯れなどは小さなピラミッドの脅威でしかないので、では、優先順位はどちらですかといったとき、やはり大きなピラミッドを優先したほうが良いでしょうねという話になると思います。

ちなみに保護活動をしようといったとき、小さなボランティアさんが、これをシンボルにして全体を守ろうといったら大変なことになりますから、そういうときは下のほうのどこかをシンボルにして、これを守ろうよといったことがとても良い活動になったりしますから、そういう意味でもピラミッドは役に立つのかなと思っています。

≪道造り、人づくり≫

自然に優しい森の産業道路づくりはとても大切で、森からできるだけ土なども持ち出さなない、外からも持ち込まない自然に負荷をかけないやり方です。本当につくって数年経つと、シカさえいなければ周囲に同化する形になっていきます。土も流されないし、安定します。この道づくりの天才がお二人ほどおられますが、何を言っているのかわからない。だから人が全然育ちません。

そこで、彼らが、山のどんな地形に着目し、どんな作業道をつくっているか、どんな風に土を移動させているかを、レーザーで測ってソフト化できないか、東大と京大と共同研究でやっています。それがコンピュータの中でソフト化されると、多分、天才が何を言っていたのかがわかりはじめるので、そうなると、この道づくりが全国に広がるとご先祖が一生懸命、きちんとやっていた森はお宝に変わります。ただ、こういうことをいくら言っても、今、林業が不振なので、林業をやる若い人材はほとんどいないのですね。やはり人材育成からしなければいけません。

たとえば道づくりひとつ取っても行政は結構、研修をやっています。ところが育たないのです。なぜなら、最低3つの条件があります。1年中仕事ができる現場、職業人として未来が描ける収入、それから現場までやって来て教えてくれる指導者。特に指導者が重要です。地形も、地質も違う他人の土地で研修して、自分のところに戻って来て同じことをやったら全くダメで終わることが多いのです。ですから、あくまでも現地に指導者のほうが来てくれる方法で、なかなかできないのですけれども、そのような研修も手掛けています。

天然水の森を舞台にして地元に優秀な人材が育ってくれれば、われわれの森だけではなく、周辺の森の整備も進んでいく。人材育成、しかも外部の人材育成には、一見、非効率的に見えるほどお金がかかるように見えますけれども、彼らが将来整備してくれるはずの周辺の森も、実はわれわれの水源なのです。最終的なことを思うと人材育成ほど効率的な投資はないのではないかとお金を使わせてもらっています。

工場のある森に今年に降った雨は、原料として使われるまでには、だいたい20年かかります。森があるべき姿に近づくには、もしかするともっとかかるかもしれませんが、短期の結果が最優先される時代だからこそ、こんな息の長い仕事があっても良いのではないかと思ってやらせてもらっています。

最後に宣伝ですが、サントリー製品が今以上に売れた場合、当然、全国1万2000ヘクタールという目標も上方修正されます。2倍、2倍に上方修正されます。つまりサントリー製品が売れれば売れるほど、日本の森が倍々で良くなるという、そういう関係を確立すべきです。いつもは他社さんの製品をたくさん飲んでいらっしゃる方がいたりするのですが、そうするとまだまだ「伸びしろ」があるなということで、頑張らせていただいているところです。どうもご清聴ありがとうございました。

【竹村理事コメント】

生物多様性の森、そこには目に見える動植物だけではなく、菌類、要するに地下のいろいろなバクテリア、キノコなどの他に、同時に人間という生物多様性のアクターがきちんと育たないと水の森ができないことが良く分かりました。

 そのために、お金の投資に加えて、これだけの時間の投資をされています。サントリーの120円ほどのペットボトルの水の背後にこういう作業があることがほとんど意識されていません。その辺の工業用水にもなるような水を浄化してボトリングしたものと、これだけ地球を良い形でつくりながら生まれてきている水が同じ価値、同じ値段であることそのものが、ある意味おかしいわけで、そういう意味ではこのCPVフォーラムの初回に、地球会計の概念をご紹介しましたけれども、結局、投資されている価値というものが正当に評価された経済システムにもつなげていかなければなりません。同時に大変な科学です。林業や生物学などいろいろ、それぞれの専門家がいますけれども、それを何十人も集めて、束ねて、これだけホーリスティックな科学、技術、ソーシャルウエア、社会技術にまで束ねて人材育成までやっている。こういう営みを企業がしています。

地球をつくる仕事、地球の価値をつくる仕事、未来の地球をつくる仕事が体現された商品が当たり前に売られて、私たちは食べたり、飲んだりしているけれども、その価値が伝わっていない。そこはどこかコミュニケーションデザインの失敗だし、ソーシャルデザインの失敗なのですね。そこを変えていかない限り、正直者が馬鹿を見ている状態にあると思います。企業の宣伝とか、企業のCSRという今までの古い枠組みを超えて、企業が本当に地球価値をつくっていく、そこで商品を購入し、使ったりすることで、われわれも地球価値をつくっていくことに参加していくことができる、そういうコミュニケーションデザインをやっていけば、経済は、あるいは企業活動は、素晴らしい地球をつくる仕事になります。

0.0 1000年以上かけてやってきた日本農業は、棚田をつくり、人工自然をつくってきた。人工の「工」は、天と地を結ぶ人の営みですよね。今日の山田さんのお仕事は本当に天と地をつなぐ人の営みですけれども、良い意味での人工自然をつくって初めて、洪水が少なく、良い水が取れて、健全な生物多様性の豊かな日本ができている。

この日本が、タダで天から与えられたものだと誤解されて、教えられているのが、今の日本の教育システムなのです。日本の中高生や大学生に、水も、森も、国土も、人間がつくってきたのだ、つくり続けなければいけないのだ、つくり続けることでわれわれが富を得ながら地球を良くすることもできる、こうした希望のシナリオを誰も教えてくれていない。

ですから、こういう企業活動を基軸にしながら、地球価値創造フォーラムが次の日本の教科書をつくっていかなければいけないと思っています。

以上

  [文責:「触れる地球の会」事務局長 岸本]


10/22 第4回 地球価値創造フォーラムCreating Planetary Value2015 開催 ミラノ食科学大学 Università degli Studi di Scienze Gastronomiche にて 竹村真一が講演
10/22 第4回 地球価値創造フォーラムCreating Planetary Value2015 開催
ミラノ食科学大学 Università degli Studi di Scienze Gastronomiche にて 竹村真一が講演
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